シネマガジン

ディスカッション・イベントの記録

全国コミュニティシネマ会議2019イン埼玉 分科会採録 vol.2


2019年9月7日(土) 会場:SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

映画館におけるデジタルシネマの今後と公共施設におけるデジタルシネマの導入を考える

パネリスト:
山海隆弘(埼玉会館)
佐藤武(広島市映像文化ライブラリー)
堀三郎(アテネ・フランセ文化センター、司会)
アドバイザー:渡邉保(映像機器システム社)


vol.1からの続き

トラブル防止を考える

司会:
それでは、第二部に移ります。ここからは、主に、デジタルシネマ機を使っている映画館の方を対象にお話しを進めます。アテネフランセ文化センターはNEC900とBARCO 20Cをもっていますが、BARCOの方は光量が18,000ルーメンくらいありますので野外上映や500~1000席の大きなホールでの出張上映で使っています。他のメーカーのものを使うこともありますし、皆さんがアンケートに書かれた問題点なども非常に切実な問題として実感しています。
まず、トラブル例について、映像機器の渡邊さん、お答えやすい範囲でコメントをいただけますか。

渡邊:
我々が日頃保守サポートをしている中で、朝の上映チェック時に「赤いアラートが出ていてどうしたらよいですか」というお電話をよくいただきます。電話対応で直るケースと、代わりのパーツを持っていかないと上映できないケースがあります。電話で解決できるケースとしては、DLPはいろいろなコンピュータの塊みたいなものなので、いろいろなボードが刺さっている、それらの一時的な接触不良でアラートが出ることがあるので、まず、第一に再起動してみる、それで駄目ならボードの抜き差しをするということで解消するケースが多いですね。我々はBARCOを主に扱っているので、BARCOについての知識が深いのですが、エラーが出たら、画面に出ているエラー番号とその内容(英語での表記)を教えてもらう、どういう対処をしたらよいかは決まっているので、それを伝える。遠隔操作でエラーの状況を見て対応できるケースもあります。パーツを交換しないと復旧できない場合、例えば、冷却水の循環ポンプが止まってしまった場合、プロジェクタは一切動作を停止してしまいます。そうすると、我々がポンプを持っていって、交換して復旧することになります。近ければ1~2時間で行けますが、遠いお客様だと朝連絡があって夕方に到着することもあり、一日はそのスクリーンでの上映は諦めて、翌日から上映を再開することになります。我々としてはできるだけ早く復旧したいので、人間だけ先に行ってパーツは飛行機で送るとか、できるだけの対応をしています。
それ以外に、ライトエンジンの故障というのがあります。これはドットが欠けるとかで、「何ドットか色がおかしくなっているけれど、上映は出来なくもないな」という場合です。ライトエンジンはすごく高額なパーツなので、保証でカバーされている場合はトラブルなく交換できるのですが、保証でカバーされていない場合、まずお見積もりを出して了承が得られれば交換するし、「高いからこのままでいい」ということもあります。「色が少しおかしくなってしまう」というトラブルもありますが、これは大体ICPボードを抜き差しすると直ります。ほとんどの場合、上映中止にはなりませんが、何回抜き差ししても直らないという場合にはボードを持参することもあります。

司会:
機材を設置している映写室の環境、温度や冷却の状態、それらは故障に対して何か関連がありますか。

渡邉:
厳密に計測したわけではありませんが、映写室はエアコンが入っていて、それなりに冷やされてはいますが、湿気を嫌うのではないかなと思います。湿度が高い映写室ほど故障が多いという印象はあります。

司会の堀三郎氏
司会:
35ミリの映写機もランプを点灯するときに、エアギャップを使って高圧電を作って放電しますので、その高圧が、湿気によって飛ばないということがあります。機器のメンテナンスの際のチェック項目、ファンの回転数とか、温度センサーとか、いくつかありますが、その見方に慣れておくこともトラブルを未然に防ぐ助けになると思います。映写室の温度は、4~5年前まではかなりキンキンに冷えていましたが、最近無人化が進んで、あまり冷えていない映写室が増えたなと感じます。サーバーのハードディスクは1℃温度が上がるだけで、故障率が1%上がるという話もあり、良質な環境が必要とされています。電気代がかかりますが、トラブルを防ぐにはそれなりの機器の環境対応も必要なのかと思います。
サーバーの中をクーリングするためのフィルターが目詰まりしていることもあります。
また、映写室は、上映中は明るくできませんが、映写室の作業照明は明るくしたほうがいい。明るくするとホコリが目立つ、それをきちんと掃除すること。映写室が作業時も真っ暗いままではだめだというのが私の持論で、それもトラブル防止には意味があると思います。
次に、導入から10年が経過するデジタルシネマ機の問題について、シネ・ヌーヴォの山崎さん、お話しいただけますか。

デジタルシネマの「10年問題」

山崎:
シネ・ヌーヴォでは、2009年度の地域商店街活性化事業(経産省/中小企業庁)の助成を受けて、2010年3月にデジタルシネマ機を導入しました。今年3月頃に、BARCOから「2020年3月をもってサポートサービス、部品の製造全てをストップします」というファックスが来て、ものすごく驚きました。うちの映画館では、まだ上映作品の半分くらいが35ミリフィルムで、デジタルシネマ機の稼働率はそれほど高くありません。これまで大きなトラブルもありませんし、まだまだ使えると思っていたところ、このファックスがきたので、何かあってからでは遅いので、新しいプロジェクタを導入しないといけない、でも導入には400万円ぐらいかかります。資金面で悩んでいますが、まだ何の準備もできていません。

司会:
シネマ5(大分)はいかがですか。

田井:
シネマ5も1台は経産省/中小企業庁の商店街活性化事業の助成で導入して、もう一台は自力で入れました。うちは2011年3月に入れたので、1年後にはシネ・ヌーヴォと同じ状況になるのかと思います。そもそも、デジタルシネマ機の寿命は10年ぐらいじゃないかと言われていますが、まだ10年を経過した映画館はなくて、実際のところはわからない。けれど、保守ができなくなれば買い替えざるを得ないので、それまでにお金を貯めておいて、新しいプロジェクタに変えるしか方法は無いのかなと思っています。

司会:
ほぼ10年前にDCPを導入した映画館も新機種の導入を考えねばならないとすると、いま導入することを検討している広島市映像文化ライブラリーと、同じフェーズに立つということになるわけですね。「10年問題」というのは、ミニシアター、コミュニティシネマにとっては非常に重いものです。今後、全国各地のミニシアターがこの問題に直面することになるわけですから、今後、継続的に情報交換の場を設けるとか、そういうことを話し合えればいいなと思いますが、ユーロスペースの北條さん、その辺りでご意見をいただけますか。

北條:
ユーロスペースも最近、プロジェクタのトラブルが増え始めている気がします。その話を他の映画館にすると「トラブルがあってメーカーに連絡してもすぐ来てくれない」という話が出ました。導入から10年近くになって、プロジェクタのトラブルが全国的に増えていて手が回らなくなっているのか、それとも、映画館に対するDLPの納品がほぼ完了して、人を減らしているためにそういうことになってしまうのか。その理由はわからないのですが、とにかく、きちんとしたメンテナンス・保証が行われるように、映画館とメーカーの間できちんと話し合うとか、みんなで考えた方がよいのではないかと思います。


ネットワークをつくる

北條:
2013年頃、多くのミニシアターが導入を検討していたときに、我々の方で導入する館をとりまとめて、ある程度の数にしてメーカーに発注することによって、少し安価にDLPを購入することができました。そういうことを、またみんなで考えるタイミングが来たんじゃないかと思います。もうひとつ、これは事務局長の岩崎さんもちょっと言っていたのですが、買い替えなければならなくなったときに、経産省等に働きかけて、買い替えのための助成について交渉をするタイミングが来ていると。次世代のDLPの導入については多くの人が不安を感じている。ですから、個別に考えるよりも、みんなで、ネットワークを組んでやったほうがいいと考えるようになりました。去年の山形でのコミュニティシネマ会議の際には分科会ではなく、前日のワークショップでデジタルシネマの話をしましたが、コミュニティシネマ会議は1年に1回しかないので、ワークショップという形も含めて継続的に話し合いの場を設けることで、有益な対策を考えられるのではないでしょうか。

司会:
北條さんのお話は、コミュニティシネマセンターの会員で情報を共有して、フォーラム的なサイトも作って共同購入するとか、メーカーに対して、まとまってアプローチをしていくという提案だったかと思いますが、渡邉さん、そこはいかがですか。

渡邊:
そうなることが望ましいとは思いますが、内心では「一体誰がやるんだ」というところもあります。メーカーにとって、その窓口となる人は、ある意味では「敵役」になって来ますから、それはそれで少ししんどいなという気もします。ただ、シネ・ヌーヴォの山崎さんがおっしゃったように部品がなくなると困るので、コミュニティシネマセンターでそういう部品をキープしてほしいと要請することはできるんじゃないかと思います。個々の映画館がメーカーに言っても流されてしまうかもしれませんが、まとまってメーカーに対して要望を出せば、もう少し話は聞いてもらえるのではないか、そのためにはお互いに何をしなければならないのかという次のステップの話し合いの場もできるのではないかと。僕の単なる希望ですが、何かそういうことについて考えてみたいと思います。トラブルのフォーラム化は、たびたびこういうところでは話題になるのですが、結局まとめてくれる人がいなくて、提案だけで終わってしまっているのが現実ですね。

司会:
場としての、フォーラムは求められているけれど、取りまとめ役がいるのかということですね。フィルム上映に関しては、フォーラムができているようですが、神田さん、その辺りのことを少しお話しいただけますか。

神田:
コミュニティシネマセンターのFシネマ・プロジェクトで、フィルム上映のネットワークを作っています。急な質問でしたので何を言えばよいのかわかりませんが、とにかく情報を共有することが大事だと思うので、私がやって来たことは連絡を取りまくるというか、強引にネットワークを作ってきたという感じです。デジタルシネマも情報共有が必要だと思いますね。

司会:
Fシネマ・プロジェクトでは「Fシネマップ」というサイトがあって、フィルム映写機を保持している映画館の映写機についての詳細な情報や映写や映写機の専門家へのインタビューのページがあったり、メンテナンスや移動上映業者のリストが入っていたり、とてもいい先例になりますね。デジタルシネマの場合は音頭取りがいないのかな。私自身は北條さんに音頭取りになってもらえばよいかなと思ってはいますが、検討課題として、十年問題を抱える館とこれから導入する人たちのどちらも参加できるような情報共有のためのフォーラム、枠組みが確立して、コミュニティシネマがより強い会員組織になればいいなと思っています。

田井:
デジタル問題というのは、結局、お金問題なんですね。いくらかかるかということが最大のテーマなんですよ。ランプを買うのとレーザーではどちらがお得かということなんですね。そういう生臭さもあって、フィルム問題のような進み方にはならないところだと思います。でも、こうやって1年に1回ぐらい状況を話し合うことは必要ですよね。ただ、かなり切迫してきている状況なので、4ヵ月に1度、あるいは3ヵ月に1度と頻度を上げて話しあうようにしないと間に合わないんじゃないか。直接話し合える場をつくる必要があると思います。

司会:
代表理事の決意表明、ありがとうございます。スピード感が必要だというのは全くその通りですね。それにお金の話は非常に重要だと思います。
最後に、佐藤さん、山海さんから、一言ずつ、お願いできますか。

佐藤武氏
佐藤:
そうですね。実際、導入してみないと見えない面というのが多いのかなと感じました。やはり、グループというか団体として考えたり、要望したりということが大切なのかなということですかね。

司会:
私の知っているアーカイブもデジタルシネマを導入するにあたって、「フィルムかデジタルかどちらかにしろ」と上の方から言われたことがあって、随分乱暴な話だなと思いましたが、予算を管理する方からするとそういう発想になってしまう。これは、オリジナルの素材で上映するというアーカイブのスタンスを保っていけるかどうかの瀬戸際にもなる問題です。山海さんは、導入する前にデジタルシネマに関するシンポジウムを行われたんですね、あれはどういう意図で行われたのですか。

山海隆弘氏
山海:
基本的にデジタルシネマについての知識がなかったということがあり、公共ホールの皆さんに集まってもらって勉強会をしようというのが目的だったんです。デジタルシネマ機を入れる/入れないという問題以前に、作り手は、デジタルシネマ機で上映されることを想定して作品を作っているのだということを、業界全体としてもっとアピールして、デジタルシネマ機で上映してほしいから、メーカーにもっと安く提供するように要請するなどしてほしいですね。製作者側も上映の機材とか環境がよくなるようにアピールしてくれると企業に対しても圧力になるのかなと。そうすると、公共ホールもデジタルシネマ機を導入しやすくなるように思います。かつて35ミリフィルム映写機を備えていた公共ホールがすべてデジタルシネマ機を導入しているかというと、そういうことは全くありません。デジタルシネマ機でなくても、普通のプロジェクタで、BDやDVDで上映すれば十分じゃないかという認識があるからだと思います。でも、実際には、そこに映っている映像は、やはり作り手が考えていたものとは違うものですから、映画製作に関わっている人たちが、上映環境を整えることが必要だとアピールするということがあってもよいかなという気はしました。

参加者:
山海さんの発表の中で、Blu-rayとDCPでは、DCPの方が制作者の意図を反映しているだろうというお話がありましたが、私も、フィルムで作られたものはフィルムで、オリジナルの素材で上映する、鑑賞することは大切だと思います。ネットで見られるからいいじゃないかということを言われることもありますが、オリジナル素材で体験・鑑賞することの大切さをもっと広く知ってもらうこと、これは直接的な解決策ではなく、間接的、抽象的ではあるかもしれませんが、それも大切なんじゃないかなと思います。

司会:
ありがとうございます。今日は急遽、オブザーバーで渡邊さんにお出でいただき、代理店として答えにくいようなこともあったかと思いますが、今後も相談に乗っていただけるのではないかと思いますので、よろしくお願いいたします。これで、「映画館におけるデジタルシネマの今後と、公共施設におけるデジタルシネマの導入を考える」分科会を、終わらせていただきます。ありがとうございます。


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