シネマガジン

ディスカッション・イベントの記録

全国コミュニティシネマ会議2019イン埼玉 分科会採録 vol.1


2019年9月7日(土) 会場:SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

映画館におけるデジタルシネマの今後と公共施設におけるデジタルシネマの導入を考える

パネリスト:
山海隆弘(埼玉会館)
佐藤武(広島市映像文化ライブラリー)
堀三郎(アテネ・フランセ文化センター、司会)
アドバイザー:渡邉保(映像機器システム社)


堀(司会):
きょうは、埼玉会館の山海隆弘さん、広島市映像文化ライブラリーの佐藤武さんのほかに、アドバイザーとして、映像機器システム社の渡邉保さんにもご参加いただいています。渡邊さんは、doremi社の日本法人に長く勤めておられ、草創期からデジタルシネマに関わってこられて、現状にも非常にお詳しいので、私の答えられない範囲があったら、お答えいただきたいと思っております。
この分科会は、大きく前半と後半に分けて、前半は、いわゆる公共ホールを中心にデジタルシネマ未導入館を対象とする内容で、埼玉会館の山海さんと広島市映像文化ライブラリーの佐藤さんにご発言いただきます。後半は、主に映画館を中心としたテーマとなります。ミニシアターの中には、2009(平成21)年にスタートした経済産業省のまちなか活性化事業の枠組みでデジタルシネマ機を導入した館も少なくありませんが、あれから約10年が経ちました。10年というのは、デジタルシネマ機のメンテナンス(保守)期限が終了する時期でもあり、今後どうなるのかを見極めねばならない時期がきているわけです。そういう意味では、新規導入を検討している施設と、導入実績のある経験豊富な劇場が同じスタートラインに立っていると言うこともできます。
配布資料の中に、コミュニティシネマセンター加盟館から寄せられたデジタルシネマ機、サーバーのトラブルの事例やトラブル解決事例が入っています。これには機器のメーカーの名前も入っています。アンケートの対象がミニシアターなので、ソニーのデジタルシネマ機は入っていません。小さな館にソニーのデジタルシネマ機が入ることが非常に少ないので(福岡市総合図書館ホール、ABCホールには導入されている)、結果的にそうなっています。私の経験で言えば、ソニーのプロジェクタにも、少なからず問題は起きています。どの機種がよいとか悪いとかではなく、様々な問題が起きながら、それを苦闘しながら乗り越えて来たのがこの10年間なのだろうと思います。
導入から10年が経って、メーカーから保守点検が継続できないと言われているところもあるようです。そういう生の声もお聞きして、よりよい方向を探っていきたいと思っています。


デジタルシネマとは何か。

堀(司会):
いま、投影しているパワーポイントは、2006年の札幌での全国コミュニティシネマ会議で、「デジタルシネマとは何か」という講座が行われた際につくったものです。このときは、私と柳修逸さん(故人)が講師として登壇しました。柳さんは、SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザの映像編集システムを構築された方で、デジタルシネマに関しても造詣が深い方です。15年近く前に作られた資料の中からの抜粋になりますが、柳さんに敬意を表して、これを使って進めたいと思います。



2006年の全国コミュニティシネマ会議の際に柳修逸氏が作成したスライド


簡単にデジタルシネマのおさらいをします。最初に、デジタルシネマのメリットを確認します。まず、複製による画像劣化からの解放があります。フィルムプリントは使えば使うほど劣化するが、デジタルは劣化がない(DCP上映の回を重ねて画像劣化することはない)。衛星配信も可能であり、ハードディスク等非常に小さな媒体でのデリバリーが可能となり、物流コストの削減ができる。年間で100億円程度、(コスト削減が)あったのではないかと言われます。フィルムの場合、拡大興行の際には400~500本のフィルムを焼く必要があった。3ヶ月後には20本くらいしか必要でなくなるので、大量のフィルムが廃棄される。その環境負荷があまりにも大きすぎるということもあって、積極的にデジタルシネマを推進するべきだという考え方もあったと思います。海賊版の防止(anti-piracy)という意味もあります。随分前のデータですが、北米だけで61億ドルの損失があったと言われています。
また、映画館がフィルムというメディア以外の映像に対して解放されたと解釈することもできます。オペラや歌舞伎、お芝居や音楽ライブ等のいわゆるODS(Other Degital Stuff)、あるいはスポーツやライブの中継(ライブビューイング)など、いろいろな映像の上映が可能になり、新しい映画館のビジネスモデルを考えることが可能になると言われています。


DCI デジタルシネマイニシアチブによる規定

次に、DCI、デジタルシネマイニシアチブについてお話しします。これは、ハリウッドメジャーの映画会社がデジタルシネマの配給上映システムを策定するために設立した組織です。最初のDCI仕様ができたのが2005年7月です。はじめは、映画配給・製作会社の規格として策定されましたが、SMPTEというアメリカの「映画テレビ技術協会」の標準規格に昇格していく。SMPTEの規格自体も未だに更新が続いている状態なので、DCI仕様も固定されてはいませんが、2005年に最初のDCI規格ができました。我々が全国コミシネ会議で「デジタルシネマとは何か」を話し合ったのが2006年ですから、DCIの規格が定まった直後に先駆的に開催された講座でした。
その後、昨年の山形での全国コミュニティシネマ会議の際には、研究会のような感じで慶應義塾大学の金子晋丈先生にきていただいて、デジタルシネマの今後はどうなるのかという非常に突っ込んだ講義をしていただきました。
2006年以降、先ほどの経産省のデジタルシネマ機導入支援事業のミニシアターへの適用、その後の勉強会や情報共有等々、全国コミュニティシネマ会議やコミュニティシネマのネットワークが果たした役割は重要だったと思います。
DCIでは、撮影がデジタルであろうとフィルムであろうと、最終的にデジタル化した上映メディアで上映・配信するものを「デジタルシネマ」と位置付けています。デジタル・インターミディエイトとして、編集工程において、劇場用の色調整を行います。その後、DCDMというデジタルシネマ配信マスター、MXFファイルという形式ですが、この中に画像や字幕の情報が入り、これを圧縮・暗号化してファイルを一体化し、DCP(デジタルシネマパッケージ)となります。ハードディスクに入っていることが多いのですが、配信という方法もあります。1作品あたり大体200ギガ超ぐらいですから、1テラバイトのハードディスクだと4~5本くらい入ります。DCPはKDM(Key Delivery Message)という、いわゆる鍵がかけられており、限られた条件でしか再生するができないことにより、コンテンツホルダーに打撃を与えることはないと言われています。
ハードディスクは宅急便などでやりとりされることが多く、これを映画館のサーバーにインジェストします。サーバー側はRAID5というレイヤーシステムを組んでいて、3台ないし4台のハードディスクに、分散処理・高速処理をするために転送していきます。
デジタルシネマ機ないしはサーバーの認証ファイル(サートファイル)と、キーを照合してDCPファイルを開き、上映します。KDM自体は300キロバイトぐらいの軽いファイルで、それとハードディスクの200ギガとの照合を行っていくというシステムになっています。解像度については、現在、DCIでは4Kまでで、6K、8Kというのはまだ規定されていません。


デジタルシネマのこれから

デジタルシネマの次のシーンとしては、HDR(High Dynamic Range)、それに、色域の広がりがDCI-P3よりももっと広いRec.2020と言われるものに移る可能性、あるいは、明るさの追求もあります。現在、映写機からスクリーンに光が当たって戻ってくる光を測定して14フートランバートを標準としています。カンデラで言うと48カンデラ、ニトで言うと48ニトです。最近少し話題になっている4Kのテレビ放送の受像機の明るさが1000~1500ニト、単純に言えば、映画館が使っている14フートランバートの20倍です。明るさに対する欲求のレベルがどんどん上がっています。
それから、ハイフレームレートがあります。人間の目のシャッターは1秒間300枚と言われます。この300枚に映像表現としての意味があるかどうかはわかりませんが、このレベルまで技術的には進んでしまう可能性もあるのかとも思います。またドルビーアトモス(Dolby Atmos)などの高臨場音場の到来もあります。このように、DCIが10数年前に作成した規格から、映画館の差別化と欲求がすごく高くなってきていると感じます。
以上、デジタルシネマの現在までをざっと概観してみました。
この後は佐藤さん、よろしくお願いします。


プレゼンテーション:
広島市映像文化ライブラリー(映画アーカイブ)におけるデジタルシネマ機の導入
佐藤武

広島市映像文化ライブラリーは映画アーカイブであり、日本映画の旧作を35ミリフィルムで収集しています。上映活動としては、収蔵作品を上映するシネマテーク的な機能がメインになっています。いわゆる視聴覚ライブラリーと呼ばれる機能もあります。学校などに学習用のDVD(かつては16ミリが主流でしたが)の貸し出しもしています。また、ビデオライブラリー、オーディオライブラリーでは、ビデオや音楽資料の個人視聴ができるようになっています。


デジタルシネマ機の必要性

上映作品を借用することも少なくありません。作品の公開時の素材で上映するのがフィルムアーカイブないしはシネマテークの使命と考えると、DCPで公開された作品はDCPで上映すべきということになります。最近では、上映素材がDCPのみであったために上映を見送らざるを得なかったこともあります。当館は広島市の中央図書館に併設されていて、図書館と連携した上映会や講演会を実施していますが、そうした企画のひとつとして、『図書館戦争』の上映を考えたのですが、素材がDCPのみということで企画を見送りました。また旧東ドイツの作品の特集上映のご提案をいただいた際にも、やはり、全てDCP作品ということで見送りました。国立映画アーカイブで継続的に開催されている「EUフィルムデーズ」は、2019年は国立映画アーカイブ、京都文化博物館、福岡市総合図書館、当館の4会場で開催したのですが、この企画の上映素材はDCPかBlu-rayです。当館では日本映画の上映の枠が決まっていて、この企画に充てられる日数や上映作品は限られているので、Blu-rayで上映できる作品のみを上映するということでも成り立つのですが、本来はDCP作品も含めた作品から適切な作品を選んでプログラムを組むべきだと感じます。また、当館では、12月上旬の障がい者週間の時期に、字幕や音声ガイドが付いたバリアフリー作品をまとめて上映しています。このバリアフリー上映でもDCP作品を除外しなければならないとなると、今後の展開、充実が難しくなります。
映画フィルムを所蔵して日常的に上映を行っている国内のフィルムアーカイブとして、当館以外に、国立映画アーカイブ、川崎市市民ミュージアム、京都文化博物館、福岡市総合図書館があり、これらの館から上映やフィルム保存に関する情報をいただいたり、時には上映企画にご協力いただいたりすることがあります。何か次のステップに移るときには、常にこの4館の動向や水準を参考にするわけですが、デジタルシネマ機に関しては、すでに4館とも導入されている。他都市のフィルムアーカイブで実現されている状況が、広島では実現できていないという出遅れ感もあります。
結論としては、様々な作品を本来の高画質で上映するためにはデジタルシネマ機の導入が必要であるとなるのですが、当館は広島市の外郭団体が指定管理者として運営していて、高額な機器は市の予算で整備することになっており、デジタルシネマ機の整備の要望はしているのですが、優先順位の高いものが多々あって中々予算がつかないという状況です。
上映作品の素材別割合をみると、2018(平成30)年度の年間上映作品(1作品1プログラム)は310作品、35ミリフィルムが大体46%、16ミリフィルムが22%、Blu-rayやDVDが31%となっています。35ミリフィルムは日本映画あるいは外国映画の旧作、16ミリは、16ミリで収集しているドキュメンタリーや文化映画、また戦前の作品で16ミリでしか収集できなかったものなどです。Blu-rayは外国映画が多い。このように、デジタルシネマ機がなくても何とか上映ができてしまうという実態もありますが、やはり導入を考える必要があります。


機種の選定

では、どういう機種がよいのか。予算を要望する場合には、どの程度の機種で、どの程度の予算なのかを示す必要があります。これまでフィルムの映写機やビデオプロジェクターの納入に関わっていただいた業者と相談して、想定機種として挙がってきたのがBARCOの機種で、どちらもレーザーのプロジェクタで、解像度が2K、DP2K-10SLPがスクリーンの横幅が9メートルから13メートル、DP2K-15CLPが13メートルから16メートル対応で、当館のスクリーンは、シネスコの場合、横幅が7メートルなので、余裕を持ってDP2K-15CLPの導入が考えられます。
試験的に1日だけDCPで上映してみようということで、巡回上映業者にDCPの機器を借りて上映したことがあります。NECのサーバー内蔵型の機材(解像度は2K、7~9.5メートルのスクリーン対応)で、フレデリック・ワイズマン特集の『大学-At Berkeley』を上映しました。詳しい検証はできていませんが、十分上映として成り立つ明るさ、画像であったと思います。
この実験をやってみて、より慎重にいろいろな機器を選択肢として考える必要があると感じています。現在、35ミリフィルム映写機が2台、16ミリ映写機が2台映写室の中にあります。35ミリ映写機、16ミリ映写機、デジタルシネマのプロジェクタをどのように配置するのか、工夫が必要です。今日のこの会議でもいろいろな事例を伺いたいと思います。


レーザープロジェクタの可能性

司会:
アーカイブとしてオリジナルの素材フォーマットで上映したいというお考えに非常に感銘を受けました。それと、工夫しながら上映プログラムを組まれているがゆえに、DCPが無くても上映ができるという皮肉な数字が出てくるということも、実感として非常によくわかりました。
いま、挙げられた機材の中で、BARCOのSLPというレーザー蛍光体のランプを持っているタイプは100~30%まで光量を落とすことができます。これが特徴的な利点だと私は考えています。機材によっては、ランプハウスの光量能力の設定を間違うとビスタにしたときに、DCIの規格である14フートランバートという光量をオーバーしてしまうということが起きます。光量はやがて経年劣化するのですが、それにしても非常に自由度があるランプ、レーザー蛍光体の機種を検討されているのだろうなと思います。
ちょっと余談になりますが、つい先日、現代美術の作家であり、映像作家でもあるマシュー・バーニーの6時間に及ぶ映画の映写のため、大阪に行きました。4Kで撮られた作品で、マシュー・バーニーの指示に従い、明るさは14フートランバートの倍、横幅8メートルのスクリーンに4.5kwのキセノンランプを付けて、30フートランバートを超えるような映像を出しました。高輝度上映というのがアメリカを中心に提案され行われていることは知っていましたが、その意味はよくわかっていませんでしたが、実際にそれを見て、非常によくわかりました。銑鉄が飛び散っていくようなシーンは、それだけの明るさがないと表現することは難しいだろうなと。現在、DCIが打ち出している14フートランバートも今後変わってくるのかなと。先ほど少しお話ししたレーザー蛍光体であれば100~30%まで調整が可能ですから、普通の14フートランバートで上映するものもあれば、小津安二郎の『東京物語』のデジタルリマスター版のような「14より低く上映したい」という作品であれば少し低めに設定ができる、でもマシュー・バーニーのような映画の規格から外れたものを上映する際には、ものすごく明るくすることもできる。新しい表現の到来にマシン側が追いついてきているとも思います。非常に高価なものですから、導入の基本条件とは違う将来的なテーマになるとは思いますが、渡邊さん、レーザー蛍光体について、どんなシステムか簡単にお話いただけますか。

渡邊:
レーザープロジェクタは、レーザー蛍光体というタイプのものと、RGBレーザーというものがあります。
レーザー蛍光体というのは、青色レーザーの光を、黄色い蛍光体に当てて、最終的に白い光を得て、それをプリズムでRGBに分けて、今までと同じ方式で上映します。
RGBレーザーは、R(レッド)とG(グリーン)とB(ブルー)、最初から三原色で出して、それをDMDのチップに当てて映像を得るというタイプです。いずれにしても、光源としてランプではなく、レーザー素子を使用しているので100~30%ぐらいまで、非常に広いレンジで明るさを変えることができる仕組みになっています。とはいえ、レーザー素子も永久に100%の性能を出せるわけではなく、年々、少しずつ明るさが落ちていきます。フォスファータイプと言われるものは、大体3万~4万時間後に明るさが半分まで落ちると言われていますので、フルパワーで使った場合、それを見越した機種選定が必要になると思います。もう1点、周りの環境、映写室の温度が20~25℃、湿度が50%以下に保たれていれば長く使えます。さらに、フルパワーではなく50%くらいのパワーで使うと長持ちすると言われています。すでに我々は30台ぐらいレーザープロジェクタを入れていますが、まだデータの蓄積がないので、実際どれくらい明るさが落ちていくかは明確にはわかりません。ある映画館で、一年経過後に測ると大体8%くらい落ちていました。そこは長く使うことを見越して性能に余裕のあるプロジェクタを選んでいるので、そんなに落ちていないのかなという印象をもっています。


プレゼンテーション
埼玉会館(公共ホール)におけるデジタルシネマ機の導入
山海隆弘

私が勤めている埼玉会館は、大小ホールと展示室が3つ、16の会議室がある典型的な公立の文化施設です。多目的ホールなので、演劇、コンサート、舞踊等の舞台芸術のほかに、研修会・講習会もやっています。そういうところで、なぜ、DCPのプロジェクタを導入したのか、導入に至った過程を皆さんにご紹介できればと思います。

公共ホールでのプロジェクタの利用目的と求められる機能


公共ホールのプロジェクタ利用として、まずは当然、映画の上映があります。それから講演会や研修会です。PowerPointはプレゼンテーションの必須アイテムになっているのでプロジェクタの利用は多い。舞台芸術でも、背景で使ったり、舞台大道具にプロジェクションマッピングという手法で映像を打つこともあり、プロジェクタを使います。
投影対象を考えると、映画はスクリーン、講演会や研修会もスクリーンです。舞台の場合は舞台装置、あるいはホリゾント幕とかですね。投影環境はどうか。映画は当然真っ暗な空間です。講演会・研修会は手元の資料が見えるような明るさ、舞台の場合は、真っ暗なシーンで映像だけを打つ場合もありますが、基本的にはいろいろな照明の中で映像が提供されます。求められるプロジェクタの明るさを考えると、映画の場合、先ほど堀さんから14フートランバートが基準だというお話がありましたが、適度な明るさが必要です。講演会・研修会はとにかく明るく、見やすければよい。舞台芸術で使う場合は、いろいろな照明とごったになりますので、これも明るいほうがよい、プロジェクションマッピングも同じような感じです。解像度は、映画は高いほうがいい、研修会・講習会も高いほうがいいだろうと、舞台もそうで、全部解像度は高いほうがいい。色味は、映画は繊細な色表現が求められます。講演会・研修会は資料がくっきり見えればよい、舞台背景とかプロジェクションマッピングもくっきりしているのがいいと考えられます。
10~20年前、フィルム上映が専らだった頃、映画でプロジェクタを使うことはなかったので、公共ホールがプロジェクタの購入を考える場合、講演会や舞台上の演出で使えるものがいいということで導入をしていました。しかし、映画がフィルムからDCPに変わって、映画でも、講演会でもプロジェクタが必要で、舞台芸術で使うプロジェクタも要求が高くなって、舞台の演出で使うものはそれなりの明るさや精度をもった特殊なものでないと対応しきれないほどになっています。公共施設、公共ホールで備品として持つプロジェクタとしては、映画の上映と講演会に対応できるもの、そうであれば導入する意味はあると考えられます。

映画上映とプレゼンテーションのために必要な機器

映画とプレゼンテーションについて、もう少し整理してみると、映画はフィルムからデジタルになり、DCPやBlu-rayディスクで配給されています。プレゼンテーションの画像は大体、パソコンから出るデータです。映画は表現を第一に考えた芸術作品、監督たちが映像の中に思いを込めてつくられた作品です。作り手は当然、どのような形で上映されるのかを考えて作っている。かつては、それはフィルムであり、現在はDCPが中心です。Blu-rayを最終形として作られた作品もありますが、映画館で公開される、ある程度の規模の作品は、DCPでの上映を最終形と考えて作られています。プレゼンテーションの場合、映像はあくまでも情報ですから、情報としてきちんと把握できるかどうかが重要です。
再生機は、DCPはサーバー、Blu-rayの場合はプレーヤーが必要です。プレゼンテーションの場合はパソコンです。
汎用プロジェクタは、DCPをかける機能がないので映画の上映はできませんが、Blu-rayはかけられますし、プレゼンテーションとしてのパソコンの映像も大丈夫です。デジタルシネマ機は、実は映画以外にも、Blu-rayもパソコンの映像も投影できます。デジタルシネマ機は、映画もかけられて、講演や研修会などの用途にも使えるわけです。

デジタルシネマ機と汎用プロジェクタの違い

2年前に、「公共ホールにシネマプロジェクタは必要か」というテーマで埼玉舞台芸術フォーラムを開催しました。イマジカの方、NECの方、それから配給のソニーピクチャーズの方と映写の鈴木映画さんにも来ていただいて、デジタルシネマとはどういうものなのか、今後どうなるのかということを、公共施設の人たちに、わかりやすく説明してもらうための研修会をやりました。デジタルシネマ機と一般プロジェクタの映像を比較したりして、デジタルシネマ機とはどういうものかが、素人なりにもよく理解できました。
デジタルシネマ機と汎用プロジェクタは何が違うのかを、もう少し詳しく比較検討してみます。まず明るさ、デジタルシネマ機は、「フートランバート」というスクリーンに当たっている光の反射の光量を基準にしています。汎用プロジェクタは、「ルーメン」で示されますが、これはプロジェクタから発している光の量を表しています。デジタルシネマ機はどこの会場で見ても同じ明るさで見られるように設定されているものだと思います。講演会で使う際に「何ルーメンのプロジェクタがあるの」と聞かれますが、うちのプロジェクタは5600ルーメンで、プレゼンテーションの画像を十分に認識できる明るさは確保できますし、映画の上映にもこれで十分です。
使用時の調整は、デジタルシネマ機は「不要」あるいは「不可」とあります。これは、基本的に専門の方が調整した後は、ほとんどノータッチということです。通常は舞台技術者が操作しています。汎用のプロジェクタは設置場所に合わせて、フォーカスや画角の調整等が必要になります。
価格について、同じ明るさであればデジタルシネマ機の方が安いのではないかという話もありました。デジタルシネマ機は、世界的にみると汎用機より出荷台数が多いらしく、メーカーが、BARCO、ソニー、クリスティー、NECの大手4社しかなく、価格競争をしているから汎用機より安いかもしれないという話でしたが、そんなに安くはないという気がします。

メディア別にみる映画上映(再生)時の特徴

このフォーラムに参加した85名のアンケートには、トラブルがあったときにどうするのかという点を心配する意見が多かったです。メディア別に上映時のトラブル対処を見てみます。35ミリフィルムの場合は20分程度のフィルムが数巻、DCPはハードディスク、Blu-rayはディスクで上映します。フィルムの場合はランプが切れているとか、フィルムが切れた、あるいは操作ミスとか、現場にいる人がミスを見つけやすい。DCPの場合は、パソコンの画面でしか操作しないので、何が起こっているのかがわからない。トラブルがあったときはお手上げです。Blu-rayディスクの場合はプレーヤー等があるので、トラブルが起こっているのがプロジェクタなのか、プレーヤーなのか、あるいはディスクに傷がついているのか、それがわかれば代わりのものを持ってくることができますが、DCPの場合、できるのは再起動を試みるくらいです。事前にバックアップとしてBlu-rayのディスクを借りておくことは必須です。
当館のデジタルシネマ機は2年少し使っていますが、これまで上映を中止にするようなトラブルはありませんが、コンサート等で大きな音を出したりするときに起こる振動でレンズカバーのねじが緩んでエラーが出たり、サーバーがうまく立ち上がらず再起動をしたりということはあります。本編と字幕のデータが別々になっている映画の際に、データを読み込む順番が違っていたために読み込めない、KDMによる解除ができないということがありました。

映画を見る環境


映画を見る空間として、映画館(劇場)と私的空間があります。一般の映画館ではBlu-rayでの上映は減っているかもしれませんが、うちのホールでは、Blu-rayで上映する作品もあります。DCP、あるいはBlu-rayです。家庭では、Blu-rayとテレビ放映、あるいは配信で見ますよね。先ほども言いましたが、監督や製作者、作り手は、DCPできちんと上映されることを想定して作品を作っているのではないかと思います。DCPで上映されるのが最終的な完成品だと。Blu-rayで上映しても、DCPの上映と同じ色や明るさで映像が表現されているのか、技術的な補正がされているのかどうか私はわかりません。が、自宅のモニターは画面が小さいし、テレビ放映の際にはCMで中断される。映画を作品としてきちんと見ることができるのは映画館(劇場)であり、そこでは、作り手が意図した表現をきちんと受け取ることができるように上映されなければいけない、そうでなければ映画を上映する意味がないとさえ感じるわけです。本物の絵画を見るのと、印刷されたカタログでピカソの絵を見るのでは全く意味が違う、もしかしたら、それぐらいの差があるのかもしれません。映画を見せる以上は、それなりの設備を整えるべきではないかと考えます。最近はDCPでしか配給されてない映画も増えていますし、いずれはライブビューイングとか様々な使い方もできるだろうということで当館では導入を決めました。
汎用プロジェクタに比べて、デジタルシネマ機は、立ち上がりとクーリングに時間がかかる、それに画面のサイズ等が固定されているので、画面のサイズや色味を変えるのに手間がかかる。講演会等では、プレゼンテーションの映像がスクリーンいっぱいに映ると大きすぎて煩わしい場合もあるので、うちのホールでは、必要とするサイズに合わせるために、スイッチャーで画角調整をしています。デジタルシネマ機でも、スイッチャーを使えば映像の調整もできるということです。色味の調整が細かくて容易に触れられないと言われますが、調整の必要がないと考えると楽ですし、できる道具の中でやればよいと考えれば、これはメリットと考えることもできます。

ネットで検索してみると、現在、公共ホールでデジタルシネマ機を導入しているところとして、埼玉会館の他に、調布市文化会館、隠岐島文化会館、高崎芸術劇場、ここは今度新しくオープンするみたいですけれど、こういったホールの名前が出てきました。民間のホールでは、有楽町の朝日ホール、日経ホール、イイノホール、よみうりホール等、この辺は試写会などをよくやられているので需要が高いのだろうと思われます。使用料金を見ると、やはりDCP対応のプロジェクタの料金設定はかなり高めです。プレゼンテーションやPowerPoint用には別のプロジェクタが使われているようです。うちの場合は映画の上映もプレゼンテーションもデジタルシネマ機でやっています。
デジタルシネマ機で心配なのは、やはりトラブルの際に誰にどう相談してよいのかわからないということです。メーカーは対応してくれますが、配給会社から送られてきたデータにトラブルがあるのか、操作ミスなのか、プロジェクタに問題があるのかがわからないので、メーカーに問い合わせるのがよいのか、配給会社がよいのか、現場では判断がつきにくく、皆に相談を持ちかけるという事態になります。ですから、トラブルシューティングの情報共有ができるとよいと思います。先ほど、字幕と本編2種類のデータをKDMで読むという映画のときに少し戸惑ったとお話ししましたが、あのときは、イマジカの方に連絡をしましたが、トラブルの状況をあまり理解されず、再起動してみてとか、一般的な回答しかされませんでした。結局、2つのファイルを入れ替えてみたら読みとることができた。日常的にそういうデータを扱っている普通の映画館では当たり前のことが我々にはわからないし、配給会社やメーカーの人たちにもそういう状況が十分にはわかっていないと思います。トラブルシューティングの情報サイトのようなものができるともっと使いやすくなるのかなというのが実感です。とはいえ、結論としては、埼玉会館では、デジタルシネマ機を導入して、有効に使えていると思います。

司会:
汎用機とデジタルシネマ機の特徴をいろいろな面から比較・分析をしていただきました。また、トラブルシューティングについて、大手の興行チェーンでは、スタッフが集まるところに掲示板があって、全国のサイトから寄せられたトラブルの情報が貼ってあったりします。その情報の中には、落雷の際の対処とか、インジェストの際の注意事項とかも書かれている。トラブルは失敗ではなく、共有すべき情報なのだときちんと認識されているところがいいなと思いました。ミニシアターや公共ホールでも、そういう情報共有ができるサイト、フォーラムがあればいいですね。

vol.2につづく

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