シネマガジン

ディスカッション・イベントの記録

全国コミュニティシネマ会議2018分科会採録
Fシネマで行こう!―フィルム上映を企画しよう!

◎パネリスト
田井肇[大分・シネマ5]
杉原永純[山口情報芸術センター(YCAM)]
柳下美恵[サイレント映画ピアニスト]
鈴木直巳[鈴木映画]
神田麻美[国立映画アーカイブ|Fシネマ・プロジェクト]
◎司会
岩崎ゆう子[コミュニティシネマセンター]

岩崎|コミュニティシネマセンターでは数年前に、「Fシネマ・プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトの主旨は、以下の通りです。

近年、急速に上映のデジタル化が進行し、多くの映画館・劇場からフィルム映写機がなくなり、フィルムで映画をみる機会は劇的に減っています。また、フィルム・映写機関連業者の縮小・撤退も相次いでいます。多くの上映者が、デジタル化に対応すると同時に、フィルムで撮られた作品は、作り手たちの思いや意図を可能な限り再現するためにもフィルムで上映し続けたいと考えています。100年をこえる映画の歴史の中で、デジタル化された作品は限られており、多くの映画はフィルムでしか上映することはできません。
フィルムでの上映環境を確保するためには何が必要なのか、調査を行い、関係者のネットワークをつくり、フィルムの知識や情報を提供するウェブサイトを開設し、フィルムの魅力を伝えるための具体的な企画を実施する、それが「Fシネマ・プロジェクト」です。

このFシネマ・プロジェクトの主旨を念頭におきつつ、今日は特に、「フィルムの魅力を伝えるための具体的な企画を実施する」ことを中心に考えたいと思います。Fシネマ・プロジェクトでは、これまでに「永遠のオリヴェイラ―マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集」「MoMAニューヨーク近代美術館フィルムコレクション」「蘇ったフィルムたち―東京国立近代美術館フィルムセンター復元作品特集」、また「フレデリック・ワイズマン監督特集」などを企画し、全国に巡回してきました。¬

Fシネマ・プロジェクトの上映企画 巡回プログラム例(すべてフィルムで提供)
永遠のオリヴェイラ―マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集


11作品を全国11会場に巡回。観客数は合計8755人(うち5005人60%が東京)
11作品はすべて現在DVD, BDの入手は困難

◎作品:
『ドウロ河』(1931)『アニキ・ボボ』(1942)『春の劇』(1963)『過去と現在 昔の恋、今の恋』(1972)『フランシスカ』(1981)『カニバイシュ』(1988)『ノン、あるいは支配の空しい栄光』(1990)『神曲』(1991)『アブラハム渓谷』(1993)『階段通りの人々』(1994)
蘇ったフィルムたち 東京国立近代美術館フィルムセンター復元作品特集

フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)が復元し蘇らせた日本映画の名作17プログラムを、同センターが所蔵する最も美しい35ミリプリントで巡回。2014-17年度で全国16会場に巡回

◎作品:
『忠次旅日記』[デジタル復元・再染色版](1927)監督 伊藤大輔
『斬人斬馬剣』[デジタル復元版](1927)監督 伊藤大輔
『和製喧嘩友達』[デジタル復元版](1928)監督 小津安二郎
『國士無双』[デジタル復元・最長版](1926)監督 伊丹万作
『瀧の白糸』[最長版・一部デジタル復元](1933)監督 溝口健二
『羅生門[デジタル復元版](1950)監督 黒澤明
『地獄門』[デジタル復元版](1953)監督 衣笠貞之助
『緑はるかに』[コニカラー復元](1955)監督 井上梅次
『幕末太陽傳』[デジタル復元版](1957)監督 川島雄三
『赤い陣羽織』(1958)監督 山本薩夫
『彼岸花』[デジタル復元版](1958)監督 小津安二郎
『お早よう』[デジタル復元版](1959)監督 小津安二郎
『秋日和』[デジタル復元版](1960)監督 小津安二郎
『秋刀魚の味』[デジタル復元版](1962)監督 小津安二郎
『幸福』[シルバーカラー復元](1981)監督 市川崑

◎短編集1
『紅葉狩』(1899)
『小林富次郎葬儀』(1910)
『史劇 楠公決別』(1921)以上重要文化財 ほか

◎短編集2
『なまくら刀(塙凹内名刀之巻)』(1917)
『黒ニャゴ』(1929)作画 大藤信郎
『くもとちゅうりっぷ』(1943)監督 政岡憲三
『幽霊船(YUUREISEN)』(1956)監督 大藤信郎 ほか

◎短編集3
『PROPAGATE(開花)』(1935)監督 荻野茂二
『銀輪』(1955)監督 松本俊夫 ほか
MoMAニューヨーク近代美術館フィルムコレクション

ニューヨーク近代美術館(MoMA)が復元した作品を中心に長編8作品と短篇6作品を、全国10会場で上映。(他に東京のみ上映作品9本)
観客数は合計8956人(うち6531人73%が東京)

◎作品(巡回作のみ)
『ビッグ・トレイル』(1930)監督 ラオール・ウォルシュ
『暗黒の恐怖』(1950)監督 エリア・カザン
『バンド・ワゴン』(1953)監督 ヴィンセント・ミネリ
『悲しみよこんにちは』(1958)監督 オットー・プレミンジャー
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』(1966)監督 アンディ・ウォーホル
『スクリーンテスト』(1964)監督 アンディ・ウォーホル
『スウィート・スウィートバック』(1971)監督 メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ
『イタリアン・アメリカン』(1974)監督 マーティン・スコセッシ

◎短篇
『ニューヨークの地下鉄』(1905)監督 ビリー・ビッツァー
『女の叫び』(1911)『男の友情』(1912)監督 DWグリフィス
『ツーリスト』(1912)監督 マック・セネット
『ニューマン劇場のお笑い漫画』(1921)監督 ウォルト・ディズニー
『フラッシング・メドウズ』(1965)監督 ジョセフ・コーネル
こども映画館
http://kodomoeigakan.jp/

2018年の実施会場:川崎市市民ミュージアム/広島市映像文化ライブラリー/鎌倉市川喜多映画記念館/邑の映画会/仙台短篇映画祭/松本CINEMAセレクト/札幌映画サークル/高知県立美術館/ゆふいんこども映画祭/高崎映画祭 ほか 巡回中。

しかし、「フィルム文化を守りましょう」とか「フィルムで上映する機会を確保しなければいけません」という主旨で企画を立てても、きちんと広報できておらず、観客にはフィルムでやっていることの意味や意義が伝わっていないことも少なくありません。どうすればフィルムの魅力を伝えることができて、企画者としてもやりがいをもって、面白く、モチベーションを高めて、フィルム上映に取り組んでいけるのかということを考えないと、お題目だけではうまくいかないなと感じています。
フィルム上映の課題として、下記のようなことがあります。

- 丁寧な広報が必要。フィルムで上映することの意味、魅力、面白さをどう伝えるか
- フィルム上映のライブ感をどう伝えるか
- スタッフの高いモチベーションを確保すること(フィルム上映は手間がかかる)
- 特に東京以外での集客には工夫が必要
- 新しいフィルム企画を実施することができるのか(プリント現像コストの高騰......)
-「こども映画館」では取り組みやすいプログラム(作品、ワークショップ)を提供すること
 ワークショップや子どもが参加できる企画の運営にはエデュケータが必要。学校との連携が必要

きょう、ご登壇いただくのは、山口情報芸術センターの杉原永純さん、コミュニティシネマセンターの代表理事でもある大分・シネマ5の田井肇さん、サイレント映画ピアニストの柳下美恵さん、映写のお仕事をされている鈴木映画の鈴木直巳さん、そして、映写技師でFシネマ・プロジェクトを担当していただいている神田麻美さんです。皆さん、フィルムの上映企画に積極的に取り組んでこられた方ばかりです。

Presentation 1
山口情報芸術センター[YCAM]のフィルム上映企画
杉原永純[山口情報芸術センター(YCAM)]

まず、YCAMの上映活動の概要について、ご説明いたします。YCAMは映画館ではありません。山口市が運営している公共文化施設で、2003年にオープンして、2018年に開館15周年を迎えました。ここでは、いろんなことをやっていて、そのいろんなことの中に、映画の上映があり、私は映画のキュレーターとして活動しています。館内に、スタジオCという100席のミニシアターがあり、通常の上映はここで行っています。DCP、35ミリ、ブルーレイ等のデジタル素材を上映することができます。実はDCP対応のプロジェクター(DLP)が導入されたのはかなり遅く、自分が2014年に行ったときにはまだ導入されていませんでした。当時は35ミリフィルム、もしくはブルーレイでの上映が主で、着任して真っ先にやったのは、デジタルシネマ機の導入でした。プログラムの主軸は、いわゆるミニシアター的な作品を週末ごとに上映するというものです。
きょうは、フィルム上映のお話をしますが、僕は、プログラマーの視点で、お金を払って映画を見にきてくれる人たちをどうやって繋げていくかということを常に考えます。こういう施設なので、教育系のコンテンツもやっていますが、僕は、実は子ども向けに映画を上映するということは、最近は諦めています。現実を認めるしかないと思っていて。YCAMの応援をしてくださっている会員が1000人くらいいるのですが、映画上映の観客としては、この会員が40%、それにシニア層が25%を占めています。映画に来てくださる方は会員を含めて年齢層が高い、プログラミングも主にその方たちに向けて組むことになります。

山口情報芸術センター[YCAM]上映事業の概要

山口市周辺人口、環境など
1023.23平方キロメートル(県内最大)
人口(平成27年8月1日現在):総数194,052人 山口県最大人口の都市は下関市280,947人
イベントによっては福岡、広島、東京などからの集客が可能。

上映活動を始めた経緯、活動の特徴など
アート作品の制作・展示、演劇・音楽ライブパフォーマンスや子ども向けワークショップなどを展開する通称YCAM(ワイカム)はメディアアートセンターであり、その中での映画上映の部門が「YCAMシネマ」に当たる。山口市内にすでに映画館はないため、単館系の一般公開作や旧作の上映を行っている。
上映設備:DCP上映デジタルシネマ機(バルコ)、35mmフィルム映写機2台、ブルーレイ他、各種デジタル上映プロジェクター
収容人数:100名(スタジオC)スクリーンサイズ:幅4.25m×高さ2.27m(ヴィスタ時)

年間上映日数・本数
2017年度上映日数:約143日 上映回数:355回 上映本数:約130本 金(夜)土日祝日のみの上映
うちフィルム上映:30回(約8.4%)

観客層
会員40%、シニア層25%、25歳以下10%(学生でなく年齢層で割引)、これらを除く一般層が25% 男女比は50:50

主なフィルム上映企画での動員数

YCAM爆音映画祭2018特別編:35ミリフィルム特集
2018年3月2日[金]-4日[日] 805名/9回上映
『AKIRA』216名、『クレマスター』全5部作一挙上映:延べ403名、『HOUSE ハウス』51名、『ポーラX』65名、『EUREKA ユリイカ』70名

フィルム de ホラー+くらべるシネマ『Playback』+三宅唱トーク
2018年2月10日[土]-12日[月・祝] 103名/6回上映
最大動員『Playback』36名 関連イベント:映写室見学ツアー 3回 各回定員5名

フィルム de アニメ 35mmフィルムでみる映画の世界
2017年3月3日[金]-5日[日] 375名/7回上映
片渕須直『マイマイ新子と千年の魔法』176名/3回上映(山口市の隣の防府市が舞台)
大友克洋『MEMORIES』57名/2回上映 新海誠『秒速5センチメートル』142名/2回上映
関連イベント映写室見学ツアー 2回 各回定員5名

芸術文化振興基金助成 日本映画特集 2018年度 相米慎二特集
662名/15本 2017年度 なし
2016年度 藤田敏八特集366名/17本
2015年度 宮下順子特集567名/13本(→宮下順子さん来場効果)
2014年度 浅野忠信特集417名/20本

優秀映画鑑賞推進事業 YCAMで旧作日本映画をスクリーン見る
シニア層→約168名(のべ)
2017年度『野火』『ぼんち』『おはん』『東京オリンピック』374名
(うち『おはん』206名・吉永小百合効果)
2016年度『伊豆の踊子』『野菊の墓』『時をかける少女』『ぼくらの七日間戦争』168名
2015年度『弁天小僧』『眠狂四郎殺法帖』『反逆児』『沓掛時次郎 遊興一匹』168名
2014年度『次郎長三国志('63東映)』『不知火検校』『網走番外地』『人生劇場 飛車角と吉良常』182名

YCAMで実施している具体的なフィルム上映企画をご紹介します。

YCAM爆音映画祭2018特別編:35ミリフィルム特集
毎年開催している「YCAM爆音映画祭」の特別編で、フィルムの作品のみを選んで9作品を上映しました。
動員数をみると、強い作品と弱い作品があります。『AKIRA』には1回で216名入りました。爆音映画祭はいつもの小さいシアター(スタジオC)ではなく、普段ライブ等をやっている定員300人のスタジオAというところで、音響機材を全部組み上げ、映写機材も持ち込んで実施しています。

「爆音映画祭2018」チラシ

「フィルムde アニメ」と「フィルムde ホラー」は、コミュニティシネマセンターが共催するFシネマ・プロジェクトとして企画したものです。

フィルムde アニメ
「フィルムde アニメ」は、映写スタッフの村岡の最初の企画で、アニメーションの近作をフィルムで上映しました。片渕須直監督の『マイマイ新子と千年の魔法』は隣の防府市が舞台で、ちょうど『この世界の片隅に』が大ヒットしていた時期でもあり、よく入りました。『君の名は。』の新海誠監督の『秒速5センチメートル』も観客が多かったです。

フィルムde ホラー
「フィルムde ホラー」では、デジタルとフィルムの上映を見比べてみようと「くらべるシネマ」というイベントを実施しました。三宅唱監督の『Playback』は、デジタルで撮られて、それをフィルムにして上映素材としていて、その後、テレビ放送用に、フィルムからデジタルに起こした素材もあります。その3種類を見比べてみました。フィルムで見えるもの、デジタルで見えるものがあり、フィルムからデジタルにコンバートしたものでは質感が全然違うことを感じてもらうことができました。しかし、集客は厳しかったです。

「フィルム de アニメ」チラシ
「フィルム de ホラー」チラシ

優秀映画鑑賞推進事業
これは、文化庁=国立映画アーカイブが行っている日本映画の巡回プログラムで、日本映画を4作品ずつパッケージで巡回しています。YCAMでは毎年、このプログラムを上映していて、2017年は「市川崑特集」でした。吉永小百合主演の『おはん』を全面に出してポスターを作ってみたら、突然来場数があがり、374人来ました。その前年は168名で、2015年も全く同じ数字で、1作品あたり42名です。2017年の374人から『おはん』の来場者206名を引くと、やはり168名です。日本映画の旧作をフィルムでやるときに、YCAMに来てくれる人が42人はいるんだなと具体的な数字が出て来て面白かったです。

「市川崑特集」チラシ

また、芸術文化振興基金助成の日本映画特集も毎年実施しています。今年は「相米慎二監督特集」で15本を上映して662人の来場者を迎えることができました。

「相米慎二監督特集」チラシ

僕は、山口に来る前は渋谷のミニシアターでプログラミングをしていました。そこでは、35ミリで、貴重な作品であれば、どんな作品でも、いつ告知をしても、大体100席は埋まりました。そういうことに対して情報網を張っているかなりの数のお客さんがいるからです。でも、そういうことは、ほとんど地方ではおきない。山口市は県庁所在地ですが、人口は約19.6万人ですから、そんなことは起こりません。2014-15年、プログラムを組む中で、どうやってそれを補正していけるのかなと考えてきました。
2017年度のデータをみると、上映会数350回、上映作品数130本で、そのうち、フィルム上映が30回、8.4パーセントもありました。週末しか上映していないので、かなり多いと思います。
2017年は、前述の特集に加え、次のような作品をフィルムで上映しています。まず、タルコフスキーの『ノスタルジア』。タルコフスキーの特集を配給している会社が『ノスタルジア』はDCPと35ミリをもっていたので、2回やるうちの1回を35ミリフィルムで上映しました。アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』もDCPと35ミリフィルムがあり、2回フィルム上映をしました。『サウダーヂ』(2011|富田克也)はデジタルで撮影していますが、上映素材としては35ミリしかないので。『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(1987|小川紳介)はアテネ・フランセ文化センターから16ミリフィルムを借りて上映しました。YCAMにも16ミリの映写機はありますが、メンテナンスもできていないので、16ミリの映写は外部に委託しています。『ノスタルジア』と『希望のかなた』は「フィルム上映」であることを特に取り上げて宣伝もしました。しかし、フィルムで上映することを謳っても、なかなかお客さんは来てくれないという現実があります。フィルム上映"だから"自然と動員が上がることはないわけですから、フィルム上映の魅力を噛み砕いて伝えないといけないということです。

フィルム上映で「のみ」スクリーンで見ることのできる傑作・秀作がある
爆音映画祭で上映した大友克洋監督の『AKIRA』や、マシュー・バーニーの『クレマスター』、こういった作品は、フィルムでしか上映できません。山口でも非常に多くの観客を得ることができました。

フィルム上映=映写は、メカニカルでアナログな魅力がある
これは、自分ではあまり自覚していませんでした。YCAMで上映を担当している村岡は、大学在学中から手伝ってくれていて、どうしてもフィルムの映写をやりたい、「映写機を触りたい」「フィルムをもっとうまく扱えるようになりたい」と言う。「デジタルじゃダメなのか」というと「それにはあまり興味はない」と言います。作品というよりも、映写機やフィルムそのもの、自分があたりまえのように見ていたものがすごく魅力的なのだということに気づかされました。そこで、フィルムの企画のときに「映写室見学ツアー」をやりました。これをやることで、お客さんもきてくれましたが、取材も非常に多かった。山口県にはいろんな新聞社や放送局の支局があります。山口にくるのは新任の若い記者が多い。彼らは当然、フィルムで映画を見たことなんてない。まったくゼロから説明しなければなりませんが、その分興味を持って記事もきちんと書いてくれて、映写室見学ツアーのことを後から振り返って記事にしてくれたりしたので、効果は大きかったと思います。

フィルム上映は、もはやライブである
僕はこのように思います。映写室見学ツアーで映写室を見せたり、フィルムに触れてもらったり、いろんな形でフィルム上映の魅力を伝えようと努力をしていますが、フィルム上映は、コンテンツだけじゃない、映写も魅力のひとつになります。客席の後ろに映写技師がいて、その人の働きによって作品が見られる、そういうことを伝えることも大切です。その魅力を感じてきてくれている人も増えている気がしています。つまり、映写自体がライブであるということもあるし、今年3月、フィルム作品を爆音映画祭で上映しましたが、ライブ感というかイベントとしての映画上映の魅力をより強く感じてもらうことができたと思います。ただ上映するだけではなく、そういうことも含めて企画を立てる必要があります。
Presentation 2
フィルムでしか見られない映画がある
〈浪曲+映画〉企画
田井肇[大分・シネマ5]

僕は「何を」やるかということしか考えておりません。「何で」やるかというのは考えていません。何かをやるときに、フィルムしかなければフィルムでやるだけのことだと思っています。映画館をやっていると、年間200本くらい上映するので、追いまくられて大変なのですが、その中で、わざわざ、決して儲からないのに、なぜフィルムの企画を立ててやるのかというのは、自分がなぜこんな仕事をやっているのかということと結びついていると思います。
僕は、2019年に、フィルムでやることになるであろう「浪曲と映画」というコラボレーション企画を考えています。浪曲とは、浪花節とも呼ばれる日本の伝統的な大衆芸能です。講談と似ていますが、最大のちがいは、浪曲は「浪曲師」と、三味線伴奏「曲師」の二人芸であることです(講談は講釈師が張扇を叩きながら一人でやる)。浪曲は、唄を歌い上げる部分(節)と地語りやセリフの部分(啖呵)で構成されています。浪曲師は演台の前に立ち、節と啖呵を織り交ぜて、ストーリーを聞かせます(これを「うなる」と言います)。曲師はそれにあわせて三味線を弾きますが、譜面はなく、即興で、浪曲師との間で、いわばジャズのセッションのようなライブが展開されてゆくのです。
昨日のパネルディスカッションで、プサンのキム・ヒョンスさんが、『大人は判ってくれない』のラストシーンと『雨月物語』のあるシーンについて「あの海とこの海はつながっている」、あるスピリットがつながっているというお話をされて「なるほど」と感じました。僕が、浪曲と映画の企画を考えているのは、そこにある種のスピリットのつながりがあると思うからです。そもそも、我々日本人が持っているスピリットとは何か。昨日上映された『國土無双』の中に出てきた「義を見てせざるは勇無きなり」、あるいは「人生意気に感ず」とか、そういうようなものが、僕にとっては大変大切なスピリットに思えるわけです。「赤穂義士伝」「清水次郎長伝」「天保水滸伝」、そういう浪曲が描いているものは、そういうスピリットなんですね。それが日本映画のスピリットにつながっている。これがとても重要だと思っています。
今回の浪曲企画では、玉川奈々福という大変素晴らしい女流浪曲師の方と一緒に、浪曲と映画で、日本人のスピリットを皆さんにお見せしたいと思っています。杉原さんが「ライブ」ということをおっしゃっていましたが、この企画も浪曲の実演という、まさにライブイベントを含んでいます。

浪曲+映画 企画案

Aプログラム|浪曲師伝説 トーク/浪曲の歴史

『桃中軒雲右衛門』(1936年、東宝)[浪曲『(雲右衛門の持ちネタ)赤穂義士伝』]
監督 成瀬巳喜男 主演 月形龍之介、細川ちか子 1時間13分
『雲右衛門とその妻』(1962年、大映)監督 安田公義 主演 三波春夫、浦路洋子 1時間28分
『頭山』(2002年)監督 山村浩二 口演 国本武春 10分

Bプログラム|広沢虎造とマキノ節 トーク/生誕120年・虎造の浪曲人生
『世紀は笑ふ』(1941年、日活)監督 マキノ正博出演 杉狂児、轟夕紀子 1時間33分
『續清水港』(1940年、日活)[浪曲『石松代参』]監督 マキノ正博 出演 片岡千恵蔵、沢村国太郎 1時間38分

Cプログラム|活弁と浪曲 浪曲師と活弁師によるトーク
『出来ごころ』(1933年、松竹) 活弁上映|曲師による三味線伴奏
監督 小津安二郎 出演 坂本武、伏見信子、大日方伝 1時間54分

Dプログラム|赤穂義士銘々伝・阪妻二本立 前説:赤穂義士銘々伝とは何か
『血煙高田の馬場』(1938年、日活)監督 稲垣浩、マキノ正博 主演 阪東妻三郎 50分
『忠臣蔵 赤垣源蔵 討入り前夜』(1938年、日活)[浪曲『赤垣源蔵 徳利の別れ』]
監督 池田富保 主演 阪東妻三郎 1時間16分

Eプログラム|天保水滸伝の世界
1 前説:天保水滸伝とは何か 『血斗水滸伝 怒濤の対決』(1959年、東映)[浪曲『笹川の花会』]
監督 佐々木康 出演 市川右太衛門、中村錦之助、片岡千恵蔵、大川橋蔵、東千代之介、里見浩太朗、大河内伝次郎、美空ひばり、月形龍之介、大友柳太朗、若山富三郎、ほか 東映オールスター 1時間54分
2 『座頭市物語』(1962年、大映)[浪曲『平手の駆けつけ』]
監督 三隅研次 主演 勝新太郎、天地茂(平手造酒)1時間36分
または『春秋一刀流』(1939年、日活)監督 丸根賛太郎 主演 片岡千恵蔵(平手造酒)1時間14分
『瞼の母』(1962年、東映)監督 加藤泰 主演 中村錦之助、木暮実千代 1時間23分
または、『関の彌太っぺ』(1963年、東映)[浪曲『瞼の母』または『関の彌太っぺ』]
監督 山下耕作 主演 中村錦之助、十朱幸代 1時間29分

Fプログラム|天保六花撰・見比べ
『河内山宗俊』(1938年、日活)[浪曲『松江候玄関先』]
監督 山中貞雄 主演 河原崎長十郎、中村翫右衛門 1時間21分
『すっ飛び駕』(1952年、大映)[浪曲『河内山と直侍』]
監督 マキノ雅弘 主演 大河内伝次郎、黒川弥太郎 1時間38分

Gプログラム|男の生きる道
『男の花道』(1941年、東宝)[浪曲『男の花道』]監督 マキノ正博
主演 長谷川一夫、古川緑波 1時間13分
『炎のごとく』(1981年、東宝)[浪曲『会津の小鉄』]監督 加藤泰
主演 菅原文太、倍賞美津子 2時間37分

Hプログラム|涙涙の母子もの浪曲映画
『母千草』(1954年、大映)監督 鈴木重吉 主演 三益愛子、川上康子、信欣三 口演
浪曲師 伊丹秀子 1時間32分
『母を尋ねて幾山河』(1955年、大映)[浪曲「(母子もの)」]
監督 小石栄一 主演 松島トモ子、月丘千秋 口演 浪曲師 天津羽衣 1時間13分

つい最近、大映の特集をやって、久々に『兵隊やくざ』を見ました。あの映画で勝新太郎が演じる主人公は浪曲師を目指していたということを改めて認識しました。浪曲師になりたいと思いながら、ヤクザと盃を交わしてしまい、破門になって中国大陸に行く。山茶花究演じる浪曲の師匠も登場します。『兵隊やくざ』の脚本は菊島隆三で、千葉泰樹監督の『狐と狸』の脚本も書いていて、これにも浪曲師で山茶花究が出てきます。いろいろな映画に浪曲のネタや浪曲師が登場する。昭和30年代中盤くらいまでは、浪曲は日本の大衆のハートを完全に体現していたんです。
浪曲と炭鉱の衰退は非常にカーブがよく似ています。炭鉱があったことが浪曲にとって非常に重要であったともいえます。炭鉱で働く人たちのハートを支えていたのが、日本においては浪曲であった。その衰退は、日本人のスピリットの衰退だと僕は思っています。そして、現在、それを回復したいという方向に向かっているんじゃないかと、玉川奈々福などが脚光を浴び始めている背景にはそういうことがあるような気がします。
2019年はかの有名な浪曲師・広沢虎造の生誕120年で、もう一人僕が注目している浪曲師・国友忠という人の生誕100年でもあります。というわけで、2019年は浪曲を重ね合わせた企画やりたい。この企画は必然的にフィルムにならざるを得ない、これが、僕のFシネマのプレゼンテーションです。
Presentation 3
「映画館にピアノを!」
サイレント映画伴奏付上映会
柳下美恵[サイレント映画ピアニスト|無声映画伴奏者]


映画は今年で123年を迎えます(リュミエールを最初とすると)。最初の約40年間は、フィルムに音が入っていなくて、中間字幕を読みながら見ていました。いまでは「サイレント映画」と呼ばれているものが「映画」で、「映画」は元々「ライブ」でした。
1995年から2018年までの私のサイレント映画ピアニストとしての活動をまとめてみました。¬

サイレント映画ピアニスト・柳下美恵の活動

1995年

映画生誕100年に「山形国際ドキュメンタリー映画祭 光の誕生リュミエール!」でリュミエール社が日本や各国で撮った映画103本をフィルム上映、ピアノ伴奏してデビュー、日本各地を巡回。
国立映画アーカイブ(旧称フィルムセンター)でシリーズ「シネマの冒険 闇と音楽」開始、鳥人・高木新平主演の『争闘』他をフィルム上映、ピアノ伴奏。

2000年
シリーズ「サウンド・オブ・サイレント」開始、永遠の少女リリアン・ギッシュ主演の『散り行く花』をフィルム上映、アテネ・フランセ文化センターの常設ピアノで伴奏。
ニコニコ大会2000@宮崎市民文化ホール(1867席)で、喜劇王ハロルド・ロイド主演の『要心無用』、喜劇王バスター・キートン主演の『セブンチャンス』他をフィルム上映、 ピアノ伴奏。

2006年
シリーズ「聖なる夜の上映会」開始、フィルム上映の回有り。会場の本郷中央教会は日本で初めて日本映画を上映。四角い映写窓のある映写室あり、グランドピアノ常設。

2008年
「シネマ尾道」オープン。映画館にピアノを!第1号。ピアノ常設館は現在、国内で25館。

2010年
「第24回ボローニャ復元映画祭」初参加。
「第29回ポルデノーネ無声映画祭」で、怪優・上山草人主演の約4時間の大作『愛よ人類と共にあれ』をフィルム上映、ピアノ伴奏。
神保町シアター『小津安二郎の世界』で現存する全劇映画36作品をフィルム上映、無声映画をピアノ伴奏。

2012年
アカデミー賞作品賞他に新作無声映画『アーティスト』(パンフレット執筆)、美術賞他に無声映画へのオマージュ、マーティン・スコセッシ監督『ヒューゴの不思議な発明』が受賞。
『月世界旅行&メリエスの素晴らしき映画魔術』公開、各地でピアノ伴奏。
「トーキョー ノーザンライツ フェステバル」で北欧映画『魔女』を ピアノ常設館 ユーロスペースでピアノ伴奏。

2013年
「北九州映画サークル協議会創立60周年記念例会」で客席に映写機を設置して、小津安二郎監督『浮草物語』をフィルム上映、ピアノ伴奏。

2014年
「タイ無声映画祭」開始。字幕デザイナーから映画入りしたアルフレッド・ヒッチコック監督『快楽の園』他をスカラ劇場で上映、伴奏。ピアノ伴奏ワークショップ。
シリーズ「柳下美恵のピアノ de シネマ」(2004年YIDFF プレイベントで命名)をピアノ常設館アップリンク渋谷で開始、フィルム上映有り(客席に映写機設置)。
川崎市アートセンター「映画タイムマシン』、現存する日本最古のアニメーション『なまくら刀』他をフィルム上映、ピアノ伴奏。映画音楽ワークショップ開始。

2015年
「柳下美恵のピアノ&シネマ(旧称 美恵'sサイレント映画)」をピアノ常設館 横浜シネマ・ジャック&ベティで開始、若きドイツ映画人たちが撮った『日曜日の人々』を1週間上映、連日ピアノ伴奏。
多摩美術大学「水曜 Pinematheque|ピアノ伴奏で観るサイレント映画」で、バスター・キートンの『探偵学入門』他をピアノ伴奏。

2016年
ミュンヘン映画博物館「小津安二郎回顧展」で『東京の女』他をフィルム上映、ピアノ伴奏。

2017年
国際交流基金の助成でアイルランド、イギリスで剣戟スター阪東妻三郎『雄呂血』他をピアノ伴奏。
「神楽坂映画祭」ギンレイホールで第1回アカデミー賞受賞作品『第七天国』他を常設ピアノで伴奏。

2018年
「広島国際映画祭」特別アンコール上映でルイ・デリュック監督『洪水』をピアノ常設館アンスティチュ・フランセ東京で上映、ピアノ伴奏。
「フランス映画祭2018」関連企画(主催:アンスティチュ・フランセ日本)で連続活劇『吸血ギャング団』を横浜シネマ・ジャック&ベティでピアノ伴奏。
「第32回ボローニャ復元映画祭」でアメリカの連続活劇『WOLVES OF KULTUR』をリノベーション中のモダニッシモ劇場で、リュミエール劇場のマストロヤンニ館とスコセッシ館でレギュラーピアニストとして33作品をピアノ伴奏。

1995年、映画生誕100年の年に、私は山形国際ドキュメンタリー映画祭でリュミエールを弾いて、サイレント映画ピアニストとしてデビューしました。リュミエールに始まり、この年は、東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)で「シネマの冒険 闇と音楽」というシリーズが始まっています。この後、「サウンド・オブ・サイレント」シリーズを始め、2000年にアテネ・フランセ文化センターで『散り行く花』をフィルムで上映しました。アテネは、上映環境が整っていて可変式の映写機があるので、サイレントのフィルムを適正速度で上映することができます。同じ2000年に宮崎で開催された「ニコニコ大会」では、2000人くらい入る大きなホールで、ロイドやキートンの喜劇を上映しました。親子対象の上映会で、就学前の子どもたちが最前列に陣取って、文字が読める大人より先に笑うんです。そうするとホール全体に笑い声が響いて、大人も笑い、とても盛り上がりました。
2006年に「聖なる夜の上映会」を本郷中央教会で始めました。明治に建てられた歴史のある教会で、最近まで四角い映写窓のある映写室が残っていました。教会での上映会というのは、あまり聞いたことがないのですが、昨日のシンポジウムでイギリスのコミュニティシネマが教会で上映会をされているとうかがい、興味深かったです。

「聖なる夜の上映会」チラシ

私は、「映画館にピアノを!」という呼びかけをしています。2008年にシネマ尾道が開館するとき、支配人の河本清順さんから寄贈ピアノがあるとご連絡をいただきましたので、運搬費と調律代をこちらで負担して「映画館にピアノを!」第1号になりました。ピアノ常設館は、私の知る限り、現在、国内で25館になりました。映写機のある映画館が減少する中、これからは「映画館にピアノを!」と共に「映画館に映写機を!」を呼びかけようと思います。
2010年にはボローニャ復元映画祭に初めて参加しました。この頃は日本人の参加者はごくわずかでしたが、最近はずいぶん多くの人が参加するようになりました。今年の第32回ボローニャ復元映画祭には、初めてレギュラーピアニストとして招聘され、33作品のピアノ伴奏をしました。¬
海外では、ドイツのミュンヘン映画博物館(小津安二郎監督映画特集)やイギリスのバービカンセンター(阪東妻三郎主演『雄呂血』他)などでも伴奏しています。

ボローニャ復元映画祭
ミュンヘン映画博物館

2014年には第1回タイ無声映画祭に招聘され、映画伴奏の他に音楽大学の学生や社会人を対象にピアノ伴奏ワークショップを行いました。国内でも川崎市アートセンターや金沢の21世紀美術館などで、子ども対象の映画音楽ワークショップを行っています。いずれ国内でも大学等の専門機関で映画の伴奏者を育成できたらと思います。同様にサイレント映画の上映もできる幅広い技術を持つ映写技師の育成が必要ですね。
2012年は、映画の上映がフィルムからデジタルに変わった時期で、『アーティスト』(2011|ミシェル・アザナヴィシウス監督)と『ヒューゴの不思議な発明』(2011|マーティン・スコセッシ監督)が象徴としてアカデミー賞を受賞しています。同じ年に『月世界旅行』の復元版とドキュメンタリー『メリエスの素晴らしき映画魔術』が公開されて、私も各地で伴奏をしました。デジタル化が進んだことで、フィルムやサイレント映画に対する関心が高まっています。

「『月世界旅行』『メリエス素晴らしき映画魔術』」チラシ

2014年から、アップリンク渋谷で「柳下美恵のピアノdeシネマ」という2月-7月の月一回の上映会を行っています。人気があるのは、喜劇映画ですが、フィルム上映の回も作っていて、会場に映写機を設置するので、わざわざ映写機の隣の席を選ぶファンもいます。
2015年からは、横浜シネマ・ジャック&ベティで「THE ピアノ&シネマ」という連続上映を、映画館の興行プログラムに入れていただいています。

「ピアノ de シネマ2015」チラシ
「THEピアノ&シネマ」チラシ

「ピアノdeシネマ」は、3年目から人気が定着してきました。手間も経費もかかるので、上映はデジタルがほとんどですが、フィルム上映の回のファンは確実にいます。「THE ピアノdeシネマ」は特別感を出すために7回目から入場料を値上げして、2週間連続上映にしました。賭けでしたが、1日当たりの集客数が伸びました。現在は、フィルムからデジタルへの移行が進んで、映画館から映写機が撤去されてしまう時代ですが、私は「映画館に映写機を!」と呼びかけたい、しかも、トーキー映画用の映写機に改造を加えてサイレント映画を適正速度でできるような映写機の設置を呼びかけたいと思います。昨日のオープニングで上映した『國士無双』も、通常の移動用映写機に改造を加えたもので上映していただきました。これがあれば、サイレント映画をフィルムで上映するハードルは少し下がります。先日亡くなられた樹木希林さんが、トラブルや手間を「面白がることが大切」とおっしゃっていましたが、サイレント映画の上映会も面白がっていきたいなと思います。

岩崎|柳下さんのお話の中に「子どもたち」ということが出てきましたが、子どもとフィルム上映ということで、川崎と鎌倉の例をご紹介いただきたいと思います。
Presentation 4-1
子どもたちにフィルムの魅力を伝える
川崎市アートセンター「映画タイムマシン」
村上朗子


川崎アートセンターでは、「映画タイムマシン」という企画を2013年から毎年夏休みに開催し、今年6回目となりました。これは古い映画を子どもたちに見てもらおうという企画で、フィルムで上映しています。2回目からは柳下さんのピアノ伴奏付でサイレント映画も上映していて、今年、映画館用にピアノを購入したので、とてもやりやすくなりました。私は、子ども向け企画を担当していますが、上映作品の選定はアートセンター・アルテリオ映像館ディレクターの大矢敏と相談して、大矢の映画についての該博な知識と、私の上映したい作品をすり合わせて決定しています。映画に音楽をつけるワークショップもやっていて、今年は初めて弁士ワークショップにも挑戦しました。子どもたちには鑑賞にも来てほしいのですが、いきなり古い映画を見るというのはハードルが高いので、ワークショップをつけることで子どもたちの(親の)参加のモチベーションが高まるかなと思っています。夏休みの公共文化施設には、子どもたちの預かり施設という役割もありますので、そういう意味でも有効です。アートセンターは公設民営なので、ワークショップの予算を計上することができますが、「映画タイムマシン」は芸術文化振興基金に申請して助成金も受けています。子ども向けの教育的なプログラムをやることは、アートセンターの活動を市民に理解してもらうことにもつながりますし、充実した企画を立てて、できるだけ、多くの子どもたちに参加してもらえるようにしたいと思っています。
プログラムの課題としては、作品の選定が難しいということがあります。田井さんもおっしゃった通り、古い日本映画の多くが義理人情がベースとなっていて、それは江戸時代、あるいはそれ以前から続く日本の文化ではあるのですが、子ども向けの上映の場合、そういう価値観をうまく咀嚼するのが難しいなと感じます。サイレント映画でも、義理人情の色濃い作品よりも、小津作品のような、映画美学的にもそれを超えたものを持っているものを選定することが多いのですが、作品が限られているのが難しいところです。
今年は、小津安二郎監督『落第はしたけれど』(1930)と『恋の花咲く 伊豆の踊り子』(1933|五所平之助)、これは前回から続く「文学もの」、それに『次郎物語』(1941|島耕二)、この3作品をフィルムで上映しました(『次郎物語』は16ミリ)。私自身、初めて見る作品もあり、映画の知識を深めるよい機会になっています。
今回、弁士ワークショップをやったときに、日本の映像文化は語りの文化の流れにもつながっていると感じましたので、今後は、写し絵の語り、弁士、ピアノ演奏、そういったものをつなぐ活動を、アートセンターの別部門であるアルテリオ小劇場と共同で開催したいと思っています。
Presentation 4-2
鎌倉市川喜多映画記念館
「こども映画館」の試み
阿部久瑠美


私は、4年前から鎌倉市川喜多映画記念館で仕事をしています。ここでは、毎年夏に「子どもシナリオ・映画教室」という映画を作るワークショップと、パラパラ漫画のような映像玩具を使って映画の原理を知ろうという、2つのワークショップをやっています。私自身は鑑賞ワークショップをやりたいと思っていたのでいくつか提案をしてきました。子ども向けの上映会では、鎌倉市や神奈川県の図書館から16ミリフィルムを借りて上映することが多いのですが、図書館で借りる場合、入場料は無料にしなければいけないので予算的には非常に厳しい、でも、やらなければならないという使命感はあるので、それがジレンマになっています。私は元々、特に子ども好きでもなく、子どもにどう対応していいかがわからなかったので、ワークショップには前向きではなかったのですが、鎌倉市内に「アートとつながる鎌倉」という子どもたちとアートをつなぐ活動をしているNPO法人があって、この方たちに協力していただくようになりました。スタッフの方たちには、子どもたちに関すること、例えばこのくらいの時間だと子どもたちは飽きてしまうとか、ここで休みをいれてトイレに連れて行くといいとか、子どもの立場に立ったアイデアを出してもらえるので、精神的にだいぶ楽になりました。いまはわずかな謝礼金をお支払いして、年に数回一緒にやってもらっています。図書館のフィルムコレクションはアニメーションが中心で、なかなかクラシック映画が上映できず、外部から借りようとすると予算に見合わないということで、いろいろ悩んだ中で、今年初めて「Fシネマ・プロジェクト」の「こども映画館」に参加しました。上映主体でと言っても、ただ見て面白いというだけではなく、体験としても楽しんでもらえる内容を目指しました。
今回の「こども映画館」のプログラムには『パンダコパンダ』や『太陽の王子ホルスの大冒険』など長篇、中篇作品もありますが、国立映画アーカイブのコレクションによる短篇プログラムが含まれていて、『なまくら刀』や『くもとちゅうりっぷ』など、初期のアニメーションが入っています。子どもたちに向けて、これらをいかに上映するかというところから企画を考えはじめ、鎌倉在住の音大の先生にも相談をして、短い時間ではあるけれど、子どもたちが弁士体験をし、サイレント映画に音をつけるというワークショップをやることにしました。まず、サイレントで映画を見て、その後に自分たちでセリフを考えて、練習をして発表をする。荻野茂二の『PROPAGATE(開花)』という抽象的なアニメーションには、みんなで音をつけました。先生の教え子の打楽器奏者の方が手伝ってくれて、20種類くらい打楽器を持って来てくれたので、子どもたちはそれぞれ自分の好きな楽器を手にできました。打楽器だとメロディーを気にする必要がないので、演奏は簡単に自由にできましたし、全部で2時間のプログラムだったのですが、最後はみんなで盛り上がって演奏して終わることができました。
やれたことはよかったと思うのですが、とにかく子ども向けのワークショップは手間がかかるというのが実感としてあります。もちろん、そこにやりがいはあるし、地域の需要に合わせて自分たちで考えることも必要だと思いますが、同じようなことをやっている人、やろうとしている人たち同士でノウハウを分かち合えたらいいなと思います。
体験やノウハウを共有できればもっと気軽に、バラエティに富んだワークショップを各地で開催できるんじゃないかと、そういうことを思いました。


logo_kodomo.png
こども映画館 Webサイト

Presentation 5
フィルムの映写/映写ワークショップ
鈴木直己[鈴木映画]

鈴木映画は、映写を請け負う会社で、いろいろなところで映写をしています。現在もフィルムにこだわって上映会をやっているところが全国各地にありますので、少しご紹介します。
仙台市の卸町で毎年開催されている「おろシネマ」という上映会は、野外で、フィルム上映をしています。ここのスクリーンは大きくて11メートルくらいになります。野外でお酒を飲みながら映画を楽しむという感じです。今年は、雨が降ってしまったので、屋内で『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映しました。

「おろシネマ」会場風景

東京・二子玉川のiTSCOM二子玉川ライズで開催されている「キネコ国際映画祭(キンダーフィルムフェスティバル)」は、ほとんどの作品はプロジェクターで上映していますが、1-2本は35ミリフィルムを入れたいということで、フィルム映写機も持ちこんで、チャップリンやキートンの短篇等を上映しています。『モダン・タイムス』など、子どもたちはとても喜んで見ています。上映が終わった後に「映写機を見に行っていいですよ」というアナウンスがあって、子どもたちが映写機を喜んで見にきてくれました。この映画祭では、声優のようにセリフの吹き替えをするワークショップをやっています。

「キンダーフィルムフェスティバル」会場風景

有楽町の日劇が閉館するときには「日劇ラストショー」という大特集がありまして、DCPの機材の横に、「シネメカニカ」というイタリア製の映写機を持ち込んで40本くらいフィルム上映をしました。ドラえもんやゴジラ、めずらしいところでは『青春グラフィティ スニーカーぶる~す』(81|河崎義祐監督)なども上映して、大いに盛り上がりました。
岩手県花巻市では「イーハトーブ・フェスティバル」というイベントを毎年やっていて、野外上映をしています。スタジオ・ジブリの鈴木敏夫さんの企画で『風の谷のナウシカ』を35ミリで見せたことがあり、フィルム映写機とDLPの両方をもっていきました。映写機を2階まで持ち上げるのに苦労したのを覚えています。

「イーハトーブ・フェスティバル」会場風景

宮崎県日向市には「山田会」という団体があって、20年以上、毎年、山田洋次監督の作品をフィルムで上映しています。監督も毎年行かれて、鈴木映画で映写をやらせてもらっています。
また、この秋には早稲田大学の演劇博物館の前庭で16ミリフィルムのサイレント映画の上映会をやります。他にも、フィルムにこだわって上映会を続けているところは各地にあり、私たちは依頼があればどこにでも映写機をもっていきますし、現在も全国各地にフィルム映写を請け負う業者があります。
それから、子ども向けの作品ということでは、日本アニメーションという会社から、昔のテレビアニメを16ミリフィルムで借りることができます。『未来少年コナン』や『赤毛のアン』、『フランダースの犬』など、名作アニメーションをかなりリーズナブルな値段で貸してくれます。テレビの作品ですから一話完結ではありませんが、子ども向けのワークショップには向いているんじゃないかなと思います。キンダーフィルムフェスティバルでも子ども向けの作品を貸出しています。
余談ですが、先ほど田井さんが浪曲のお話をされましたが、私は、いま周防正行監督の新作『カツベン!』の撮影協力をしています。この映画は、2020年2月頃公開される予定です。

神田|Fシネマ・プロジェクトのウェブサイト(Fシネマップ)には、出張上映をしている会社のリストなども載せています。フィルム上映が可能なホールや映画館のリスト、それぞれの映写設備の情報などが載っているページもあります。映写に関する用語の説明やQ&Aなど、技術的なことも載せていますが、映写は実際にやってみないと身につかないということで、2015年からフィルム映写ワークショップを始めました。初級編と中級編のクラスを設け、初級編はフィルムと映写機の基本的な取り扱いを学び、中級編では、上映に携わっている映写技師を対象に映写機のメンテナンスの方法を学ぶことができる内容になっています。
2015年は高崎電気館で、2016年は東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)の相模原分館で行い、2017年はまた高崎電気館で実施しました。高崎電気館はフィルムで上映を行っている映画館で、ホールのほかにもワークショップができるスペースがあり、とてもいい会場です。2018年は12月に関西(立命館松竹スタジオ)でワークショップを開催します。

映写技師養成ワークショップ+上映会
2015年度:高崎電気館[上映企画]昭和歌謡映画特集『下町の太陽』ほか
2016年度:東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)相模原分館
2017年度:高崎電気館[上映企画]『ジャズ娘誕生』[デジタル復元版](1957) ほか
2018年度:立命館松竹スタジオ

「フィルム映写ワークショップ2017」チラシ

参加者(倉田剛)|「シアターセブン」でも、活弁付上映のときなどはお客さんがたくさん来るんですが、そういうことは年にほんの数回しかできません。同じ大阪の「シネ・ヌーヴォ」では、旧作の特集上映を中心にプログラムを組んでいて、この間の「ATG特集」では45本を上映していますが、ほとんどフィルムだったと思います。フィルムは重いし、映写にも手間がかかります。若い力が必要だと思いますし、人を育てることが非常に大事だと思います。第七藝術劇場にも、以前は「梅田東映」という大きな劇場で映写をやっていた人がいたのですが、後継者を育てることができていないという問題があります。
Presentation 6
フィルムの魅力を伝える
ボローニャ復元映画祭(Il Cinema Ritrovato)
神田麻美[国立映画アーカイブ|Fシネマ・プロジェクト]

先ほど、柳下さんのお話の中に出てきた「ボローニャ復元映画祭」について少しお話しさせていただきます。この映画祭の最大の特徴は、その名前の通り、修復、復元、発見された作品を世界中から集めて上映しているということです。公式には1986年から開催されていて、今年で32回目を迎える映画祭です。主催者は「チネテカ・ボローニャ」というフィルムアーカイブです。メインの会場は5-6ヶ所ありますが、山形国際ドキュメンタリー映画祭の会場の距離感に近い印象で、全会場歩いて回ることができます。今年は「マストロヤンニ再発見」、「テクニカラー探求」、「キートン・プロジェクト」など、多くの特集テーマが設けられ、開催期間中(6月23日-7月1日)9日間で、およそ500本の作品が上映されました。
チネテカ・ボローニャが運営する「シネマ・リュミエール」という映画館の中庭では、カーボンアークという昔の光源で上映するプログラムが行われました。

「シネマ・リュミエール」中庭の上映会場

カーボンとは炭素のことで、リュミエールの時代から使われていた光源です。つまり上映の方法も復元して見せているわけです。チネテカ・ボローニャの映画館には2つのホールがあり、いずれも150席くらいで、スコセッシ館、マストロヤンニ館と名付けられています。

「シネマ・リュミエール」会場内部

地下の劇場跡を復元して上映会場にしているところもありました。柳下さんもこの会場で伴奏されています。

地下の劇場跡を復元した上映会場

マッジョーレ広場がメインの野外上映会場です。2000席用意されていて、チケットを持っていなくても通りすがりに映画を見ることができます。右側に教会がありますが、その教会の階段にも人がぎっしり座っていて大盛況です。周りにはお酒を飲めるようなお店のテラスがあって、そこから映画を見ている人もいました。写真を撮った日はマーティン・スコセッシをはじめ、ゲストもたくさんきていて、スコセッシがディレクターをしているニューヨークの「フィルムファンデーション」が復元したメキシコの映画『ENAMORADA』が上映されました。フィルムファンデーションはボローニャ映画祭のサポーターでもあるそうです。この広場では、数年前に『2001年宇宙の旅』の70ミリフィルム上映もありました。

 
マッジョーレ広場

マッジョーレ広場での上映が雨で中止になったときには、テアトロコムナーレ(ボローニャ市立劇場)というオペラハウスで上映が行われました。素晴らしい劇場で、オーケストラピットでオーケストラが演奏する中で『第七天国』が上映され、とても厳かな雰囲気でした。

テアトロコムナーレでの上映

「シネマアレッギーノ」や「シネマジョリー」といった1000席ぐらいの大きな映画館も上映会場になっていて、フィルム上映もデジタル上映も行われていました。上映以外にも復元や映画教育に関する様々なセミナーや、ラボ見学というコースもあります。
ただ貴重なフィルムを上映するというだけでなく、映画とそれを見た場所が結びついて記憶に残る映画祭だと実感しました。観客は、もちろん映画の研究者やシネフィルが多いのですが、それだけではなく、子どもからお年寄りまで幅広い観客がきているという印象がありました。「復元された映画」というだけでは非常に限られた人にしか関心を持たれない可能性がありますが、主催者は、より魅力的に、幅広い層が参加することができるように、相当知恵をしぼって、苦労しているのではないかなと思います。

参加者(坂本安美)|皆さんのお話を聞いて、フィルムで上映することは「ライブ」に近くなっているということを再確認しました。フィルム上映のひとつの例として、2016年3月にニューヨークのローワーイーストサイドにできた「メトログラフ」という映画館をご紹介したいと思います。すごくおしゃれなスポットで注目を集めています。アレクサンダー・オルチという映画製作にも関わりながらデザイナーもしている方が空間デザインをしていて、リンカーンセンターでプログラミングをしていたジェイコブ・ペルリンと、サンダンス映画祭にいたアリザ・マーがプログラミングをしています。上映しているのは、ほとんど35ミリフィルムです。ジェイコブはフィルムが大好きで、アメリカはメセナ活動が盛んなので、そういう企業やお金持ちの人たちの支援を募って、35ミリの作品をどんどん集めて、フィルムで上映するのがプレステージという雰囲気を出して成功しています。そこで『アスファルト・ジャングル』(1950|ジョン・ヒューストン)を見たのですが、スクリーンがものすごく大きくて、やはり特別な感じがありました。
フィルムで上映することは本当に貴重なことなんだということを打ち出して、多くの観客を集めるような、そういう映画館や場所が日本でもできたらいいなと思います。
「メトログラフ(Metrograph)」Webサイト

岩崎|ボローニャのみならず、各国で復元映画祭やフィルムをフィーチャーした映画祭が行われ、多くの人を集めていますし、日本でも国立映画アーカイブの『2001年宇宙の旅』の70ミリ上映が大きな話題を集めるということもありました。何かのきっかけさえあればフィルムの上映も多くの方に見ていただけるチャンスがあると思います。子どもたちにフィルムの文化を伝えていくことも、これからも続けていきたいと思いますので、皆さんも上映にトライしていただければと思います。きょうはご参加いただき、ありがとうございました。

2018年9月29日|全国コミュニティシネマ会議2018イン山形

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