映画フィルム作品【上映企画】

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永遠のオリヴェイラ
マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集

オリヴェイラは世界最大の映画作家である 蓮實重彦

現役最高齢の映画作家として数多くの作品をつくり続けたマノエル・ド・オリヴェイラ監督が、2015年4月2日に106歳で亡くなりました。本特集では、80年をこえる映画人生でマノエル・ド・オリヴェイラ監督が遺してくれた珠玉の映画をPart1、Part2に分けて上映します。

オリヴェイラ監督は、1908年12月11日、ポルトガル北部の港町ポルトに生まれました。1931年に初監督作『ドウロ河』を撮り、1942年に初の劇場用長篇映画『アニキ=ボボ』を発表しますが、映画監督として本格的に活躍をはじめるのは60歳を越えてから、独裁政権が終わりを告げた1970年代半ば以降になります。1972年『過去と現在 昔の恋、今の恋』を発表、『ベルニデまたは聖母』(75)、『破滅の愛』(78)、『フランシスカ』(81)と、「挫折した愛の四部作」を構成する作品をつぎつぎに制作します。『フランシスカ』で敏腕プロデューサーのパウロ・ブランコと組み、自らが望む企画が実現できる環境を得て、『繻子の靴』(85)、『神曲』(91)、『アブラハム渓谷』(93)、『世界の始まりへの旅』(97)、『クレーヴの奥方』(99)などの輝かしい傑作を発表。2000年代に入り、90歳をこえてもなお、ミシェル・ピコリ(『家路』01)、ジョン・マルコヴィッチ(『永遠の語らい』03)、カトリーヌ・ドヌーヴ (『永遠の語らい』)、ビュル・オジェ(『夜顔』06)、ジャンヌ・モロー、クラウディア・カルディナーレ(『家族の灯り』12)といった世界的名優を迎えて、自由さと瑞々しさに溢れる作品を生み出し続けました。2014年のヴェネチア国際映画祭では短篇『レステロの老人』が上映され、健在ぶりをみせてくれました が、2015年4月2日に106歳で亡くなりました。

日本では、1993年に開催されたポルトガル映画祭で初めてオリヴェイラ特集が組まれ、同年の東京国際映画祭で『アブラハム渓谷』が最優秀芸術貢献賞を受賞、オリヴェイラ監督という偉大な映画作家の存在を知らしめました。これ以後、ほとんどの長篇が劇場公開され、オリヴェイラ監督は日本の映画ファンが最も敬愛する映画作家となりました。

今年10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭では、オープニング作品として『訪問、あるいは記憶、そして告白』(82)が 上映され、12月には『アンジェリカの微笑み』(10)が公開されます。コミュニティシネマセンターでは、2010年に「ポルトガル映画祭2010―マヌエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち」を開催、オリヴェイラ監督作品を多くの方にみていただきました。

「永遠のオリヴェイラ-マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集」Part1では、2014年の『レステロの老人』を特別上映するほか、『アニキ・ボボ』(42)から『階段通りの人々』(94)に至る8作品を上映します。2016年夏以降に開催するPart2では、1990年代後半から2000年代の代表作、さらに日本未公開の『フランシスカ』(81)等を上映、Part1の作品と合せて全国に巡回します。

日程会場地域
2016年1月23日[土]~2月5日[金]ユーロスペース東京・渋谷
2016年夏全国巡回予定 

作品紹介

  • [ 特別上映 ]

    レステロの老人

    O Velho do Restelo

    [2014年/19分/カラー/DCP]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:レナート・ベルタ/出演:ルイス・ミゲル・シントラ、リカルド・トレパ、ディオゴ・ドーリア

    ポルトガルの大航海時代を詠った国民詩人カモンイス、「ドン・キホーテ」の作者セルヴァンテス、『破滅の愛』の原作者である19世紀ポルトガル・ロマン派の小説家カステロ・ブランコ、20世紀初頭の詩人パスコアイス。4人の文学者がポルトガルの過去と未来について語り合う。タイトルである”レステロの老人“は、大航海時代の栄光に異を唱える人物として、カモンイスの詩『ウズ・ルジアダス』の中に登場する。

  • アニキ・ボボ

    Aniki Bóbó

    [1942年/71分/モノクロ/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:アントニオ・メンデス/出演:ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ

    オリヴェイラの長篇デビュー作。陽光降り注ぐポルトの街を舞台に、躍動するアナーキーな少年少女たちを縦横無尽に活写してネオレアリズモの先駆的作品と見なされる。「アニキ・ボボ」とは警官・泥棒という遊びの名前。幼い恋の冒険を「罪悪」と「友愛」の寓意へ変貌させる演出のスケール感はすでにして巨大。

  • 春の劇

    Acto de Primavera

    [1963年/91分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ/出演:ニコラウ・ヌネス・ダ・シルヴァ、エルメリンダ・ピレシュ、マリア・マダレーナ

    16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは、「上演の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する謎と緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。

  • 過去と現在 昔の恋、今の恋

    O Passado e o Presente

    [1972年/115分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:アカシオ・ド・アルメイダ/出演:マリア・ド・サイセット、マヌエラ・ド・フレイタス、ペドロ・ピニェイロ

    長篇劇映画第三作。ヴィンセンテ・サンチェスの戯曲「過去と現在」を、監督が自ら映画用に翻案。『フランシスカ』に至る「挫折した愛の四部作」の第一部にあたる。現在の夫に心を開かず、事故死した最初の夫への想いを募らせる妻ヴァンダを中心に、過去と現在、死者と生者の間を交差する奇妙な愛が描かれる。

  • カニバイシュ

    Os Canibais

    [1988年/91分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:マリオ・バローゾ/出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドーリア

    『過去と現在』から音楽を担当してきたジョアン・パエスとともに作られたオペラ・ブッファ映画。厳かに進行する貴族たちの晩餐会は、やがて、タイトルが予告する驚愕の食人場面へ。人間と動物、人間と機械、見せかけと本質…ヴァイオリンの調べに乗ってあらゆる境界が軽々と侵される。

  • ノン、あるいは支配の空しい栄光

    Non, ou a Vã Gloria de Mandar

    [1990年/110分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:エルソ・ロケ/出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ディオゴ・ドーリア、ミゲル・ギリェルメ

    1974年、独立戦争が長期化していたアフリカのポルトガル植民地で、疲弊した兵士たちは戦争の意味と自国の歴史を振り返る。カモンイスの叙事詩「ウズ・ルジアダス」、アントニオ・ヴェイラ神父、フェルナンド・ペソア、ジョゼ・レジオなどの文学作品に想を得て、ローマ時代から20世紀まで、ポルトガル民族の2000年にわたる歴史の中の四つの敗北の物語を描く、オリヴェイラによる壮大な歴史・戦争映画。

  • 神曲

    A Divina Comédia

    [1991年/141分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:イワン・コゼルカ/出演:マリア・ド・メデイロス、ミゲル・ギリェルメ、ルイス・ミゲル・シントラ

    「精神を病める人々」の表札が掲げられた邸宅で、アダムとイブ、キリスト、ラスコリーニコフ、ニーチェのアンチ・キリストら、歴史的文学作品の登場人物たちが、信仰と理性と愛についての議論を戦わせる。西洋古典の深奥に分け入りながらも「まったく未知なものとして、絶対的な驚き」とともに再び映像として蘇らせるオリヴェイラ芸術の真骨頂。

  • アブラハム渓谷

    Vale Abraão

    [1993年/188分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/原作:アグスティナ・ベッサ=ルイス/撮影:マリオ・バローゾ/出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ

    フロベール「ボヴァリー夫人」をもとにポルトガル文学の巨匠アグスティナ・ベッサ=ルイスが原作を執筆。彫琢された言葉の響きとオリヴェイラの完璧な映像が火花を散らす“文芸映画”の最高峰。監督が追求し続ける女性美が、主人公エマを演じるレオノール・シルヴェイラと洗濯女を演じるイザベル・ルトの両極に具現する。
    フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

  • 階段通りの人々

    A Caixa

    [1994年/96分/カラー/35ミリ]
    監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ/撮影:マリオ・バローゾ/出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル

    リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは、1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」。
    フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

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