シネマガジン

インタビュー・コラム

フィルムと映写の小さなブックガイド/岡田秀則

岡田秀則/東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員

 昨年、「シネマブックの秘かな愉しみ」という展覧会を企画してみて、映画の本も実に多様なのだと実感しました。ここでは、フィルムや映写にまつわる本を三冊ご紹介します。最初の二冊はもう新刊書店では見つかりませんので、関心を持たれた方は古書店か図書館へ足をお運びください。


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杉本五郎『映画をあつめて』
(平凡社、1990年)

 伝説的な映画フィルム・コレクターであり、抜きんでたアニメーション映画の専門家だった杉本五郎が残した文章を逝去後にまとめた本です。
 自作アニメーションに挑んだ少年時代、野外上映に心を砕いた青年時代、そして幾度火災で焼失してもくじけない苦闘のフィルム収集。特にフィルムや映写機については、これこそ足で稼いだ知識というもので、ただ舌を巻くばかりです。
 いわば彼の映画フィルムへの情熱的なラブレターであり、映画を愛することの"業"を教えてくれる本でもあります。


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マリヨン・シャリエ、ルー・ジュネ
『知識の泉12 映画の発明』
(同朋舎出版、1995年)

 映画の発明から、芸術としての映画の発展までをコンパクトに解説、中学生までを対象にした児童書です。
 しかしページごとに凝った仕掛けが満載されたこの上ない豪華書で、大人が読んでも楽しくて仕方がありません。あるページには映画フィルムも貼り付けられていて、一冊一冊どれだけの手間をかけて作ったのか考えただけで途方に暮れます。
 翻訳と監修は、日本随一の無声映画の専門家、小松弘先生が手がけています。運良くこれを持っている方は生涯の宝物にしてください。


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荒島晃宏
『映画館のまわし者 
  ある映写技術者のつぶやき』
(近代映画社、2011年)

 「映画を映写する」なんて、映画館にとっては当たり前の仕事かも知れません。映写技術者である著者も、ここでは日々の仕事を淡々と丁寧に説明しているだけなのですが、その行為の中にいかに繊細なニュアンスが秘められているか、そして映写が観客との対話であるという事実を、これほど深く感じさせてくれる本はありません。
 フィルム上映の激減した現在、その前に出版されていてよかったと心から思える一冊です。

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