映写相談室【映写基礎知識】

映写技師の1日

上映前の仕事 ~プリントチェックと準備~

通常映画フィルムは、2時間前後の作品でだいたい5~10巻に仕上げられる。1巻が10~15分程度。

1.プリントの状態を確認

最初に、映写情報(画郭(注1)音の種類(注2)、巻数)の確認、カウントリーダー(注3)の長さや正誤などを確認し、プリント(注4)状態を確認していきます。一般の劇場でのプリントチェックはリワインダー(注5)を使用し、フィルムのエッジを指で挟みながら送っていきます。目切れ(注6)などがあれば補修をし、収縮(注7)や歪みが著しい場合には上映不可の判断をすることになります。また欠損(コマ落ち)や褪色(注8)が著しい場合なども、プリントの状態を責任者に報告し判断をあおぎます。

○ 正しい持ちかた
× 誤った持ちかた

注:基本的にコア(巻芯)に巻かれたプリントを扱うときは、平らに寝かした状態ではなく、必ず画が天地の方向へ向くように縦の状態を保ちます。手に持つ時はコアを指で支え(中指を軸にすると良い)、映写機や編集台にセットする際は、手のひらでフィルム側面を支えます。

2.上映準備

巻掛け(かんがけ)(注9)の場合は巻末付近に銀テープ(注10)の貼り付け、また手動での切り替え時はチェンジマーク(注11)の確認をします。それ以外の場合(全自動(注12)、半自動/ノンリワインド(注13))は編集を行ないます。編集をする場合は、巻数やフィルム面(サウンドトラック、乳剤面・ベース面が合っているか)を間違えないように注意しながらつなぎます。いずれにせよ、チェック・補修を行いながら編集や銀テープの貼り付けを行います。

注:編集時にフィルム表面を触るときは必ず手袋をしますが、エッジを指で挟んでチェックする際、プリントの状態によっては素手のほうが安全な場合もあります。特にアセテートのプリントは、エッジの切れ目に手袋が引っ掛かりフィルムが裂けてしまうことがあるので、臨機応変に手袋を使い分けます。

3.上映作品の画・音量チェック(試写)

上映作品を映写し、画に異常がないかを確認すると同時に、音のレベル調整を行います。音のバランス、プリントの状態を確認するためにできれば全巻を通して試写をしておくことが理想的です。業務状況によっては難しいかもしれませんが、特に状態の悪いプリントは全巻試写が望ましいです。劣化したプリントは画が揺れやすい、フォーカスが合わせづらい、などの症状が出やすく、また特に古い時代の作品は録音時のレベルが様々なため、本番の前に状態を知っておくと対応がしやすくなります。なお観客が多いときは音が吸収されてしまうので、当日の入場者数に合わせて再度調整が必要になってきます。

注:基本的に、フィルムをかけて映写機を回したら、巻き取り終わるまで途中で止めてはいけません。サウンドドラムの部分はフィルム全面に接触しており、摩擦によりプリントに傷が入ってしまうためです。

1日の流れ

映写機用掃除道具と補修・編集道具:上段左より、スプライサー、水、無水エタノール、エアダスター。下段左より、手袋、ウエス、ガーゼ、綿棒、ルーペ、ダーマトグラフ、和バサミ、歯ブラシ、銀テープ

1.映写室、映写機の清掃

フィルムに埃がつかないように、日頃から床もきれいに掃除しておきましょう。
映写機にフィルムが接触する部分(ローラー、フィルムゲート(注14)サウンドドラム(注15))は汚れがこびり付きやすいので、念入りに掃除をします。特にサウンドドラムは、汚れが付着したまま回転すると画の部分に傷が付いてしまいますから、より念入りに。スプロケット(注16)ローラーはやわらかい歯ブラシなどを使います。またゲート部の汚れはこびりつきやすいですが、画の揺れやフォーカスずれを起こすだけでなくサウンドエリアに傷をつけてしまうため、きちんと汚れを落とします。オイル漏れをおこしている場合はフィルムに付着しやすいので、ミシン部や映写機まわりの油は拭いておきます。

注:鉄製の部品は錆びやすいので、基本的に水は使用しません。布・ブラシを使って汚れを落とすか、無水エタノールを使用した場合は薄く油を塗っておくと良いでしょう。素材によっては水でも問題ありませんが、よく乾燥させます。

各ローラーの回転、スプロケットローラーと押さえローラーの隙間を確認

2.映写機の動作前確認

  • 送り出し、巻き取りのリールを手で回し、ブレーキ(注17)が効きすぎていないか確認します。固い場合はスプリングネジを緩めるか、また機種によっては油を差すタイプもあります。
  • 潤滑油の量・色を確認します。機種によってオイルゲージがあり静止時の目安となりますが、モーターが動いている時にオイルが循環しているか、ときどき駆動部を目視します。機種によっては映写の度に油をさすタイプもあるので注意します。
  • 各ローラーがきちんと回転しているかどうか、スプロケットローラーと押さえローラー(シュー)の間隔を確認します。スプロケットとシューの間隔調整はフィルム2枚を挟み(注18)、ローラーがスムーズに回る位置で留めるようにします。
  • 通電する前に映写機のモーターノブを手で回し、いつもと重さが変わっていないか確認します。またノブを回すことで、インターミッテント・スプロケット(注19)が静止している状態にしてから電動させます。

注:長年(1~2年を目安に)作動させていない場合は、専門の技術者によるメンテナンスを行ってから作動させるようにしましょう。

さまざまな調整用フィルム

3.ランプを点灯し、作動。画、音の確認

  • 通電し、ランプを点灯させます。
  • 画:フィルムを通していない状態で映写機を回し、ランプにフリッカーは出ていないか、輝度(注20)が暗くないかを確認します。また、映写機が2台ある場合は、光量のバランスがとれているかを確認します。その後、フィルムを通して異常がないか確認します(確認事項は下記)。またこのとき、映写機に異常音がないか注意しましょう。
  • 音:各スピーカーから音が出ているか、ノイズが出ていないかを確認します。時おり場内に入って、映写機を回さない状態でノイズが出ていないかなども確認しましょう。
  • 画・音の確認にはテストフィルムでのチェックを行います。
【使用するもの】
SMPTE(注21)のスクリーンチャート
⇒各スクリーンサイズが正しいか、フォーカスが合っているか、画の揺れやシャッター流れが出ていないかを確認します。
不要になった予告編など(なるべく傷がないものを使います)
⇒画・音の確認をします。映写機を通したあとに、巻き返しながら新たな傷が入っていないかも確認します。
ドルビーントーン(注22)ピンクノイズ(注23)バズトラック(注24)などのテストフィルム
⇒手元にあれば上記のような調整用のフィルムを使用し、異常がないか確認します。これらの確認頻度は3ヶ月~半年に1度を目安にし、1年に1度は専門の技術者に確認・調整してもらうことを推奨します。

4.マスクのセット

上映作品の画郭に合わせ、映写機にレンズとアパーチュアマスク(注25)をセットします。そしてスクリーン側のマスクを合わせます。SMPTEチャートRP-40を使用することをお勧めします。

注:スクリーンにうつしたSMPTE RP-40(右写真)。これを基にスクリーンサイズを確認・調整します。また映写機側の不調(フォーカスや画の揺れなど)も確認できます。

アパーチュアやレンズを覗きながら手動でフィルムを送っていき、フレームが中央にきていることを確認。また2ヶ所のループ(フィルムゲートの直前と直後にある、山になっている部分)の大きさに注意。

5.フィルムをセットし、音を設定

映写機にかけるフィルムの巻数(順番)は合っているか、またサウンドトラックと、乳剤(注26)面・ベース(注27)面の方向が合っているかを確認し、送りだしのリールにフィルムをかけます。サウンドトラックが手前になっていること、35mmフィルムの場合は乳剤面がランプハウス側にきていることを確認します。カウントリーダーのスタート位置をアパーチュアに合わせますが、この時少し手前でセットしておきます。フィルムの先端は床に垂らさないよう、先に巻き取りリールに巻いておくとよいでしょう。やむを得ない場合は、フィルムバスケットやそれに代わる清潔な箱などを使用します。

モーターノブを手で回し、アパーチュア、またはレンズをのぞいてフレームがずれていないかを確認します。またループが大きすぎてフィルムが映写機に接触していないか、小さすぎて突っ張らないかを確認し、程よい大きさにします(注28)。この作業を行なってから、アパーチュアを見ながら決められたスタート位置までフィルムを送ります。

音は、作品のフォーマットに合わせて、プロセッサーの設定を行います。試写のときに決めた音量に合わせましょう。

6.スタンバイ、そしていよいよ映写スタート

客入れが始まったら、決められたBGMやアナウンスを行います。スタート時刻が近付いてきたら、もう一度念入りに映写機やプロセッサーの設定を確認します。スタート時刻になったら開映ベルを鳴らし、スクリーンカーテンを開け、暗転、そして映写機をスタートさせます。

フレーム右上にうつる黒丸がチェンジマーク

7.映写中にも作業はたくさん

画がスクリーンに映ったら、フォーカスを合わせ、フレーミングを調整します。同時に、音が正常に出ているかどうか確認します。観客が多い時は音が吸収されるので、できるだけ場内で実際の音を確認します。
画が揺れていたり、特にフィルムゲート辺りのフィルム走行音に違和感を感じたら、フィルムゲートの圧を調整します。劣化したプリントはフォーカスがずれやすいので、映写中は逐一画面を確認することが大切です。またスプライス部分の通過音など、通常の走行とは違う音がしたら、フィルムのループを確認し目が飛んでいないかどうか、またフレームずれしていないかどうかを確認します。
巻掛けの場合は、巻末近くになったらもう一方の映写機の確認を行い、スタンバイします。銀テープで切り替えの場合も、センサーが正常に作動しない場合があるので、チェンジマークを見ながら確認することが必要です。

コンテナと呼ばれるケースにフィルム缶を収納します。国内の運搬はこの状態で行われます。

8.映写終了

巻掛けの際は、通常は映写中に、上映を終えたプリントを巻き返します。もともとプリントの状態が良くない時には、指でエッジをはさみながら巻き返し、エッジに切れ目が入っていないかを確認します。きちんと平らに巻かれずにエッジが飛び出していると、破損する可能性もあるので注意しましょう。特に油の付着したプリントは巻きが悪くなります(常にうまく巻けないときは、リワインダーの調整が必要です)。
巻き返しが終わったら巻数を間違えないように元の缶やコンテナへ戻します。次の上映の準備を行います。

9.そして一日が終わる

その日の上映が終了したら、ランプのスイッチをOFFにし冷却します。だいたい10~15分ほどファンを回した状態にしておいて、その間に映写機の清掃など行います。
ほぼ毎日上映が行われている施設であれば、映写機の清掃は上映前だけでもよいのですが、しばらく上映しない場合は映写機に汚れがこびりついて落ちにくくなってしまうため、上映後にきちんと清掃を行う必要があります。サウンド部のゴムローラーは、サウンドドラムから離した状態にしておきましょう。

ポイント

◎問題があったときに対処できるように、映写の準備は時間に余裕を持って行ないましょう。
◎映写機を使用しなくても、定期的にランプを点灯し回すことも重要です。またモーターノブを手で回したり、テストフィルムを使用したりして、正常な状態を把握しておきましょう。

  • 注1)35mm映画フィルムのスクリーンサイズには、スタンダード(縦横比1:1.37)、シネマスコープ(1:2.39)、アメリカンビスタ(1:1.85)、ヨーロッパビスタ(1:1.66)などの規格があり、作品によってその画郭に合うレンズやマスクをセットする。
  • 注2)再生フォーマット(モノラル、ドルビーSR、ドルビーデジタル、DTSなど)を確認し、プロセッサーの設定を行なう。磁気、シアンダイトラック、カラーのデンシティのサウンドトラックは、映写機側の読み取り装置が対応しているか注意。
  • 注3)編集された映画フィルムの冒頭につける、カウントダウン・フィルムのこと。本編を保護する役割もある。題名、巻数、音の種類など、作品の情報が記載されている。
  • 注4)上映用フィルムのことを「プリント」と呼ぶ。画・音原版から焼き付けた、完成したポジフィルムをさす。
  • 注5)フィルムを巻き戻す装置。巻き返し機。
  • 注6)“目”=パーフォレーション。映画フィルムの両側または片側のふちに一定間隔で空けられている四角い穴で、カメラ・映写機のスプロケットやピンにかみ合い作動することで、フィルムが送られる。目が切れていると、フィルムの走行に支障をきたす可能性が高い。
  • 注7)保管環境により特にアセテートフィルムに発生しやすい、劣化症状のひとつ。スプライサーにフィルムを固定したときに、パーフォレーションがピンにはめにくい時は要注意。
  • 注8)アセテートフィルムに顕著にみられる劣化症状のひとつ。コントラストとカラーバランスの低下がみられ、シアン色素とイエロー色素の劣化が進むことで赤っぽい画像になる。最終的には色褪せた白黒のようになる。
  • 注9)複数巻に分かれているひとつの作品(通常5~10巻程度)を、1巻ずつ2台の映写機を使用して上映すること。玉掛け(たまがけ)ともいう。
  • 注10)アルミ箔のテープで、プリント巻末付近のエッジに貼りつける。映写機側の無接点センサーがこれを読み取り、巻の切り替えを自動で行う。
  • 注11)巻末付近の、フレーム右上の隅に出る印。手動で映写機を切り替える際に必要なマークで、7~8秒の間に2回出る。瞬きをしても認識できるように、通常4コマずつ入っている。
  • 注12)2台の映写機を使って、1台目の映写が終了すると自動的に2台目の映写機に切り替わり映写を開始するシステム。
  • 注13)1台の映写機でノンリワインド(巻き戻しなし)の映写が可能。
  • 注14)フィルムをアパーチュア(光を通す窓)の位置に正確に保持するための機構部分。
  • 注15)回転をムラなく円滑にするためにフライホイールが取り付けてある、ドラム型のローラー。音の読み取りを安定させるためにフィルム全面を接触せざるをえない構造になっている。
  • 注16)フィルムのパーフォレーションにかみ合いフィルムを送る、円型の歯車の歯。
  • 注17)巻末に近づくとテンションが強くなり、アセテートプリントは切れることもある。本編は小さいコアより大きいコアのほうが、負荷が小さい。
  • 注18)フィルムとつなぎ目(スプライシングテープ)の厚みが通ることを想定し、フィルム2枚分としている。機種によって違いがあるので、各マニュアルに従うこと。
  • 注19)フィルムを送る機構(間欠運動装置)と連動したスプロケットのこと。
  • 注20)フィルムの場合、スクリーン中央部分で16fLが基準。周辺もなるべく均一に近づける。
  • 注21)Society of Motion Picture and Television Engineers(米国映画テレビ技術者協会)の略で、映画、テレビなど映像技術全般に関する標準規格を策定している団体。
  • 注22)ドルビーが販売している、レベル調整用のテストフィルム。Cat.No.69T。
  • 注23)場内で各チャンネルの音圧測定等を行うために使用するフィルム。ドルビーCat.69Pがこれにあたる。
  • 注24)サウンド読み取り部の位置調整を行うために使用するフィルム。SMPTE Buzz Trackがこれにあたる。
  • 注25)フィルムゲートにある、フィルムに光線が当たり画面枠が決まる窓の部分
  • 注26)ハロゲン化銀の微細な結晶粒子をゼラチン液中に分散させたもので、フィルムの感光層としてベースに塗布されている。この層が像や色を形成している。
  • 注27)感光材料を塗布する支持体のこと。アセテート、ポリエスターなどがこれにあたる。
  • 注28)35mm上映プリント・光学録音の画音間隔は、ANSI SMPTEやISOにおいて[21±1/2コマ音先行]と定められている。つまり画窓からサウンド読み取り部の距離は、ループも入れて20~21コマ分と決まっている。

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